今回の衆議院選挙で、リフレ派議員の馬淵澄夫氏、小沢鋭仁氏が落選したことで強く思うようになったのだが、大規模な量的緩和を中心とするリフレーション政策を唱えても票にはならない*1。個別の議員が唱えたときはもちろん、党の方針として打ち出したときも、そんなに集票能力の高い政策では無い。そして、仮にリフレ政策が機能したとしても、支持率の向上にはつながらない可能性が高い。
1. 世論調査では経済政策への関心が高いが・・・
世論調査によると、内閣を評価するときに重視する項目の双璧は、社会保障と経済政策だ。安倍政権発足直後の2013年は経済政策が最も重視されており、最近は社会保障が一番目に来る。これだけ見ると魅力的な経済政策を提示する方が選挙に有利に思えるが、だからと言って有権者が特定の経済政策を評価するとは限らない。
2. 内閣支持率は個別政策や景気回復との関連が低い
高い内閣支持率を誇ってきた安倍総理の看板政策アベノミクスだが、その軸である大規模金融緩和への評価が世論調査で高いわけではない*2。雇用指標のよさから考えれば、安倍政権の経済政策は何であれ支持されそうなものだが、そうでは無いのだ。経済政策の中身への関心が薄い傍証は他にもある。消費税率増税は根強い反対意見がある政策だが、増税決定もしくは実際に増税した後に内閣支持率が下落するわけでもない*3。また、復興特別税や定率減税の廃止など注目度が低い増税に至っては話題にもならない。さらに、結果重視とも言えないところがあり、雇用水準と内閣支持率の関係すら低い*4。
3. 政治家を支持する理由は明確に意識されていない
結局、有権者の大半は個々の政策を吟味した上で投票先を決定しているのではなく、もっとぼんやりとした印象で支持先を決めているのであろう。世論調査の支持理由を主成分分析で観察した限りでは、内閣を支持/不理由は大した情報になっていなかった*5。恐慌のときに何も経済対策を取ろうとしないような内閣には不信感を抱くであろうが、そこそこ何かしようとしているように見える限りでは、具体的な内容は重視されていないようである。米国でも、ノーベル賞受賞経済学者が寄り集まってトランプ氏の経済政策について否定的なメッセージを出していても、トランプ大統領は誕生した。
4. あなたの政治信条は、大多数の政治信条とは限らない
「野党は財政金融政策がダメだから支持されない」「安倍政権に勝てる経済政策は○○○である」ような言説は、ネット界隈のリフレ派からよく出されている。しかしどうして、それら「オレが考えた最強の経済政策」を打ち出せば、リフレ派以外の有権者の大多数に支持されると思い込んでいるのであろうか。数多くの専門家から、その政策効果に否定的な見解が出されている上に、そもそも有権者の大半は、経済政策論争に大した興味関心を持っていないのだ。もちろん自分の政治信条が一般的なものだと主張する方が、政治活動としては正しいのであろうが、意識的にそのように振舞っているのか怪しい人々もそれなりいる。
*1古くはみんなの党の渡辺喜美代表がリフレ派であったが、結局は大きな政治力を維持できなかった。他にも金子洋一・前参議院議員などの例がある。ただし、リフレーション政策を主張することがマイナスになったわけではなく、助けにならなかったと言う事である。馬渕氏は民進党から、小沢氏は日本維新の会から希望の党に移っており、逆風を避けそこなった選挙になっていた。なお、金子氏曰く「わが国のためになることならたとえ一票にもならなくてもやるのが政治家だ」と言う事で、選挙対策として唱えているわけでも無いそうだから、彼らを批判する意図は無い。
*2異次元金融緩和への評価を聞く世論調査が少ないので調査機関によるバイアスが懸念されるが、2016年9月のテレビ朝日の調査では「安倍内閣になって、日本銀行が行った大胆な金融緩和は、日本の経済を良くするのに、良い効果があったと思いますか、思いませんか?」と言う質問に、58%が「思わない」と答えている。「思う」は15%だった。
*3相当の利害関係が生じれば別であろうが、有権者は政治家が自身が支持しない政策を取ろうとしていても、政治家への評価は変えないことが知られている(関連記事:世論調査なんて無視しておっけー、有権者なんてついてくる)。
2017年の第48回衆議院選挙は与党が増税を、野党が増税回避を訴えた選挙であったが、それが既に立法が済んでいる規定路線とは言え与党が圧勝している。国外でも同様の事例はあり、スウェーデンは1994年に財政再建を掲げた社会民主党政権が政権を奪取した(関連記事:りふれ派はスウェーデンに触れてはいけない)。
*41998年8月から2017年5月までのデータで、単位根などに気を使いつつAR(1)モデルで推定してみたのだが、雇用改善は内閣支持率を引き上げるとは言い難い結果が得られた(雇用改善は内閣支持率を引き上げるか?)。
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