2017年3月23日木曜日

日銀券が日銀の負債である理由

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昔の紙幣は兌換銀行券と言って、金や銀などの貴金属との交換が保証されたものであったから、中央銀行にとって発行した紙幣が負債であるのは明白であった。一方、現在、日本銀行が出している紙幣は不兌換で、法的に何かの返済義務を負っているわけではないから、その負債性が見えにくくなっている。償還日がない発行済紙幣は、日銀のバランスシートの負債ではなく純資産(資本)に計上すべきと言う声もそこそこ聞かれるぐらいだ。しかし、日銀が状況に応じて日銀券の回収を行なう義務を負っているからこそ、日銀券の価値と機能が維持されている。だから、日銀券はやはり負債と考えるのが適当だ。

日銀券に負債性があるのは、銀行券の価値の安定のために、適時、国債を主とした金融資産で日銀券を回収することを予定しているからだ。インフレ率を制御するために通貨供給量をコントロールする必要があるわけで、通貨供給量、つまり発行済日銀券は放置しておいて良いものとはされていない。インフレは金利でコントロールされていると思う人もいるかも知れないが、通貨供給量と金利は密接な関係を持つので同じ事になる。政策金利を一定に保つためには、日銀券を出されたら国債を渡すと言う様なオペレーションが必要だ。不兌換紙幣と言っても、日本銀行が信認を確保しなければならない「債務証書」のようなものであるという性格に変わりはない*1。長らくインフレ抑制の必要が無い流動性の罠にあるので実感が沸かないと思うが。

さて、日本のマクロ経済学者で懐疑的な見解を示している人がいる理由が分からない人がそこそこいる、ネット界隈で話題のノーベル賞受賞経済学者のスティグリッツが三つあげた累積債務問題の対策の一つの「政府(日本銀行)が保有する政府債務を無効にする」を考えてみよう*2。この提言を実際に行なうとすれば、日銀のバランスシートの負債の部に記載される日銀券は消し去れないから、資産の部に記載される国債を政府通貨(つまり、硬貨)と置き換えることになるであろう。しかし、硬貨と紙幣を交換しても通貨供給量を少なくする事はできないので、日本銀行の資産構成がマクロ金融政策には役立たないものになってしまう。日銀は日銀券の信認を確保できなくなるわけだ。スティグリッツは中央銀行のマクロ金融政策を重視しない立場なのであろう。にわかに注目を浴びている物価水準の決定理論(FTPL)がまさにそうであるし、理屈が通っていないわけではない。経験的にも、財政規律なきインフレ抑制は成功しない。しかし、中央銀行の主要なマクロ金融政策手段を放棄することになるわけで、これを支持するのにはかなりの勇気がいる。

1 コメント:

TamurinMoney さんのコメント...

『日銀券が「債務証書」のようなものであるという性格に変わりはない』という日銀サイトの説明にはゴマカシです。
日銀サイトは不換紙幣である日銀券の「価値の源泉」について説明していません。

http://whatsmoney.hateblo.jp/entry/2015/10/04/122037

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