2022年6月10日金曜日

ポルノ視聴の性暴力への影響研究をメタアナリシスすると

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メタアナリシスと言う言葉をご存知であろうか。同一内容の複数の研究の統計解析の結果をつなぎ合わせて、個々の研究よりも確かな推定量を得ようとする手法を指す。研究室でのランダム化比較実験のように、ほとんど同じ実験が追試で多数行なわれるような場合には、事実上、大サンプルからの推定量が得られる便利な方法だ。ポルノ視聴と性暴力の影響に関して、このメタアナリシスをかける冒険的な論文Ferguson and Hartley (2022)*1を紹介したい*2

この論文の著者の2名は説得的な展望論文Ferguson and Hartley (2009)*3も書いているし、無理を承知で解析していると思うが、この分野の研究は実験(experimental study)にしろ、(個票を使った計量分析である)相関分析(correlation study)にしろ、(社会統計を従属変数とする)集団研究(population study)にしろ、研究手法にばらつきが多い。しかし、正の効果から負の効果まで一貫性がポルノ視聴の性暴力への影響を総括するには、こういう方法も試してみる価値はある。

Ferguson and Hartley (2022)は、文献情報データベースで心理学のPsycINFOサイコインフォと、医療のMedlineメドラインに登録された論文*4から、機械的にpornographyに加えて、aggress*かviolen*かassaultかrape(注意:*はワイルドカード)と言う単語を含む論文63報を抽出し、うち分析対象に適さない4報を除外した59報を、非暴力的ポルノに関する相関研究、縦断研究、実験研究、集団研究、暴力的ポルノに関する相関研究、実験研究の6種類に分類した上で、それぞれにメタアナリシスをかけた論文だ。変量効果モデル。単にメタアナリシスをかけるだけではなく、ファンネルプロットで出版バイアスの有無を検証するなどのお決まりの分析の他に、実験研究と相関研究には、理想的な研究デザインになっているかの基準*5に照らし合わせて規範的ベストプラクティススコアをふることで規範スコアと推定結果の関係を見ており、論文の主張に相反する主張の研究も引用しているか引用バイアスもチェックしている。

分析結果は、正負どちらにも統計的に有意な効果は認められないものであった。あえて言うと暴力的ポルノに関する相関研究では正に有意な効果が認められるが、出版バイアスが恐らく入っているためである。非暴力的ポルノ研究に関しては、規範的スコアが高いほど、効果量が小さくなる傾向が見られた。また、引用バイアスがある論文は、効果量が大きい。被験者の性別や、脱落者の有無などでは、効果量に違いは観察されなかった。論文にははっきり書いてはいなかったが、政治的な意図なく、規範的な分析が行なわれれば、統計的にポルノの有害性は確認されない蓋然性は高い分析結果と言える。

この論文、ポルノが性暴力に影響しないことを示した論文と捉えられているようなのだが、この分野の分析が稚拙なものでありがちな事を手間暇をかけて指摘しているところが興味深い。要約を見ても、結論を見ても、もっとまともな研究をしやがれって書いてあるし。なお、心理学再現性クライシスはポルノと性暴力の関係に限った話ではないし、社会科学分野でもポルノと性暴力の関係に限らず適切な計量分析は困難なことが多い。

*1Ferguson and Hartley (2022) "Pornography and sexual aggression: Can metaanalysis find a link?," Trauma, Violence, & Abuse, Vol.23(1), pp.278–287

*2某氏の紹介がやや我田引水気味だったので。

*3関連記事:快楽は一瞬で代償は高くつく? — 強姦と性的暴行へのポルノの影響

*4ここ1週間ほど検証してきた経済学分野の論文Kendall (2007),Bhuller, Havnes, Leuven and Mogstad (2013),Diegmann (2019)は含まれていない。

*5相関研究と実験研究にそれぞれ6項目の基準が設けられているのだが、相関研究の方に、ここ20年ちょっとで社会科学方面で一般化した統計的因果推論には配慮がなかった。

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