2019年12月4日水曜日

韓国の世論調査は回答率が低いので信頼できないと言う前に

このエントリーをはてなブックマークに追加
Pocket

もとは韓国のネット界隈から生じた話だと思うが、韓国の世論調査は回答率が低いので信頼できないと言う話があって、報道番組で日韓問題を取り上げたときに呼ばれたゲストや*1、韓国関係の記事を書いているジャーナリストからも*2指摘されるようになってきた。しかしこれ、韓国メディアの回答率の計算方法が、日本語のそれと異なる可能性がある。

1. 低すぎる回答率、普通の回答者数

報道されている回答率は、確かに以下のように低い。しかし、極端に低すぎるし、その割りには回答者数が多すぎる。また、「通話を試みた」「電話をかけて」と言う表現も(理由は後述するが)違和感がある。

リアルメーターは19歳以上の有権者5万4612人に通話を試みた結果、最終的に2505人が回答を完了し4.6%の回答率になったと明らかにした。標本誤差は95%、信頼水準で±2.0ポイントだ。— 文大統領支持率51.8%、8カ月ぶりに最高 | Joongang Ilbo | 中央日報
今回の世論調査の標本誤差は95%の信頼水準で±2.0%ポイント。4万6470人に電話をかけて2519人が応答した(応答率5.4%)。世論調査の詳細内容はリアルメーターと中央選挙世論調査審議委員会のホームページ参照。— 文大統領の支持率48%…「肯定的評価がまた優勢」 | Joongang Ilbo | 中央日報

2. 不自然とは言えない政権支持率の動き

有効回答率がここまで低いと、世論調査に応じるという事にセレクション・バイアスの大きさが心配になるが、韓国大統領の支持率の動きは当地の政治問題と連動しており、日本の内閣支持率の動きと大差ない。支持政党が固定されている層が残るセレクション・バイアスのようなものがあれば、政権支持率が上下しないと言う意味で不自然な動きになったりするが、そういう事はない。韓国は急に下落するイメージがあるが、日本だって短期政権が続いたときはそんなものであった。

3. RDDによる電話世論調査の回答率が低い

韓国ギャラップが実施した「アウトドア活動、運動経験率」という個別面接方式の調査をみると、広く関心が持たれそうでもないのに回答率27%とそこそこの数字になっている。日本でも調査主体や調査内容によっては有効回答率は落ちていくので、この回答率27%が特段、低いと言うわけではない。少なくとも、政権支持率のように日韓で一桁違う回答率にはなっていない。ここから、RDDだけ問題を抱えているように見える。

4. 回答率の分母の集計が日韓で異なる可能性

回答率の分母の集計が、日韓で異なるのではないであろうか。

乱数番号法(RDD)と呼ばれる世論調査では、大量の電話番号を乱数で選ぶが、そのうち実際に使われている電話番号で、さらに調査対象となる家計の電話番号である率は、かなり低い。日経リサーチの説明から計算すると、15%強しかない。

日本の世論調査の回答率を出すときの分母は、この15%となる電話番号の数となる。現在使われていない番号や、電話をかけた先が事業所などの場合は、有効回答率を出すときの分母の数としては数えない。しかし、韓国の世論調査の回答率は、乱択された電話番号の数をそのまま分母に使っている可能性がある。

「通話を試みた」「電話をかけて」と言う説明からは、調査対象となる家計の数を分母にとっていないと考えられるし、回答者数を乱択した電話番号の数で割っているとすると、韓国の世論調査の回答率はそれらしい数字になる。通話を試みる電話番号の数が多すぎる気もするが、オートコールチェック(ACC)が使われていないとすれば、不自然ではない。

韓国ギャラップの調査では、機械翻訳だが「回答率:19%(総通話5,312人のうち1,002人の応答完了)」と言うものもあり、これが通話が成立したうち19%だとすると、5,000件の稼動番号にかけて、900件以上の協力を得ることを目標としている日経リサーチのものと実は似たような数字になっている。

5. 明確な原因が示されない懐疑論

韓国世論調査懐疑論者から、回答率が低くなっている明確な理由が示されているわけではない。思いつくところ、例えば近年導入されている機械による自動音声を使っての世論調査*3は、そうでないものよりも回答率が低くなることが日韓で指摘されているが*4、リアルメーターがそれに依存する一方で*5、韓国ギャラップは電話調査員インタビュー(CATI)で機械による自動音声を用いていない*6が、韓国ギャラップの有効回答率も政権支持率調査で15%程度であり*7、日本の内閣支持率調査と比較して高いわけではない。

6. 政治的主張が強い韓国人が世論調査を嫌う理由は?

あれだけデモが大好きで政治的主張に熱狂する韓国人が、世論調査ごときに怯むとは思えない。韓国の世論調査は回答率が低いので信頼性に劣ると言う前に、韓国ギャラップやコリア・リサーチ、リアルメーターあたりの調査方法の詳細を確認する必要がある。残念ながら見つけられなかったので、誰か政治学者あたりが日経リサーチの説明の図あたりを朝鮮語に翻訳した上で、どうなっているのか聞いてきて欲しい。

0 コメント:

コメントを投稿