2018年11月28日水曜日

ジェンダー社会学の観点で反ワクチン派叩きを見ると

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倫理学者の江口某氏が、社会学者の橋迫瑞穂氏(@_keroko)のコラーゲンを主成分とするゼリーから作るマシュマロを食べると美容によい*2と言う軽口に、偽科学批判批判をしている学者の態度としてよくないと苦言を呈していた。これ自体はそう目くじらを立てるほどでは無いと思うのだが*1、過去の橋迫氏のプチ炎上発言を検索してみたところ、反ワクチン派批判への批判を繰り返していた。ジェンダー社会学を学ぶと、こういう観点でモノを考え出すのだなと言う典型例になっていそうで興味深い。

1. 社会問題に関心がない

疫学的な観点から反ワクチン派が社会問題になっている事を、どうも橋迫氏は認識していない。「反ワクチンってそんなに増殖してんの、エビデンスは?」と言い出している。2010年ぐらいまでは子宮頸がん/HPVワクチンの接種の意義を訴えてきたメディアが、副作用が疑われた後にワクチンの危険性を主張する人々の話を取り上げた*3ことは、見聞きしなかったのであろうか。国外ではワクチン接種忌避者が増えて麻疹が流行しているし*4、日本でも飼い犬への狂犬病の予防注射の接種率が落ちている*5ことなどは広く報道されている。今や、ワクチン忌避者の保護者の子どもにどうワクチン接種をしてもらうかと言うのが、一つの政策論になっているぐらいだ*6

2. ワクチン行政にも無関心

ワクチン接種に関わる歴史的な経緯も、橋迫氏は認識していないようだ。「HPVワクチンを止めてる行政」と言っているが、厚生労働省は「積極的な推奨」を「推奨」にしているだけだ*7。「ワクチンって副作用が何パーセントでリスクがあって、でも効果はあって、という判断を母親に委ねてきた歴史がある」とも言っているが、政府はワクチンの効能と副作用と検討して母親と母親以外の保護者に推奨して来ているので、この認識も正しく無い。定期予防接種が義務から努力義務になり、同時に集団接種方式は廃止されたが、それは過去に事故が生じ副作用の疑惑が出た後に自己決定権を尊重するようになったからではあるが、疫学的な効果の判断を母親に委ねているわけではない。

3. 科学のあり方についても無関心

興味深いことに『真に「正しい科学」などというものはなく…社会的なものが常に入り込んでいる』と科学批判も展開しているが、その典型事例として知られるルイセンコ論争を知らなかったと告白している。また、前後即因果の誤謬(post hoc ergo propter hoc)とブラセボ効果を混同している発言があるので、そもそも科学に関心が無さそうだ。なお、科学(を用いた批判)に政治的・社会的要因が入り込むことがあるにしろ、ネット界隈の反ワクチン派批判にそれらが影響しているとは限らないし、政治的・社会的要因で反ワクチン派が正当化されるわけではない。科学のあり方を語るのであれば、社会学と言うよりは科学哲学を参照すべきであろうが、それに関する文献*8は参照されていないようだ。

4. 自然派ママが悪く言われるのは許せない

科学的方法論にもワクチン行政にも無関心に思える橋迫氏が、反ワクチン派批判への批判を行なっているのは、どういう理由でであろうか。「ニセ科学批判になぜフェミニズムの視点が必要」「自然派ママを叩くニセ科学批判も流行りです。わたしはどうもそこが気に食わなくて、ついついグチグチしてしまう」と言う発言から想像がつく。「子宮系」なる謎な偽科学分類を振り回し、女性が関わりやすいモノは科学だけで批判するなと主張もしている。反ワクチン派になりやすいのは女性と言う固定観念があって、ジェンダー社会学の観点からは女性と言うグループへの非難は間接的にでも許されないと言うことなのであろう。一方、ワクチン接種忌避が社会にもたらす影響の善し悪しと言うところには、注意が払われていない。

5. まとめ

社会学者の橋迫瑞穂氏の主張をつなぎあわせると、科学にもワクチンにも関心はないが、自然派ママと言う女性を叩く行為は許せないと言う事なのが分かる。しかし、子どもの厚生がかかっているし、子どもは母親のおもちゃではない。社会学に社会厚生と言う発想が無いのが問題なのだが、もう少し、世の中の善い悪いを考えて欲しい。また、反ワクチン批判者は、どちらかと言うと行政が反ワクチン派の主張を取り入れないように主張しているだけだし、反ワクチン派でなくなれば自然派ママを叩く人は少数であろう。放置しておいても、フェミニズム的な問題には至らない。

追記(2018/12/14 21:10):GLORIA氏から不適切だと指摘されたので、アドバイスに従って表現を訂正した。

*1誰かが無駄な出費をする可能性のある風説を流すという意味では社会悪だが、他人の軽口を真に受ける方が悪いという社会規範の方が強いように思える。

*2美容によいとコラーゲン飲料を製造販売しているところは多いが、コラーゲンは吸収されるときに分解されるし体内で生成可能な物質なので、まだコラーゲンの生成に必須なビタミンCでも摂取するほうがお肌によいのではと言われており(コラーゲン | 疑似科学とされるものの科学性評定サイト)、典型的な疑似科学商売の一つである。

*32000年頃にインフルエンザの危険性が報道されたあと、一斉接種をやめた後に下がっていたインフルエンザのワクチン摂取率が上昇した事などから、メディアの反ワクチン報道には強い影響力があると考えられる。

*4FORTH|新着情報|ヨーロッパで麻しん患者が昨年比400%に増加

2017年の麻しん患者の急増には、この地域53か国のうち15か国で大規模に(患者100人以上)に流行したことがありました。感染者が最も多く報告されたのは、ルーマニア(5,562人)、イタリア(5,006人)、ウクライナ(4,767人)でした。これらの国々では、全体的な定期予防接種の接種率の低下、接種を重要視しない一部の集団での恒常的な接種率の低さ、ワクチン供給の中断、十分に機能していない疾病調査システムなど、近年、さまざまな課題がありました。

追記(2018/12/01 07:00):世界のはしか患者数30%増、ワクチン非難も一因 国連 写真2枚 国際ニュース:AFPBB News

*5狂犬病の予防接種率が急降下 発症例が半世紀なく危機感薄れ… | sippo(シッポ) |

*6関連記事:人々にワクチン接種をさせる方法

*7関連記事:国民に適切な情報提供ができるまでが長い子宮頸がんワクチン副作用問題

*8御題に近い哲学書で「疑似科学と科学の哲学」と言うのがあるそうだ。

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