ここ一ヶ月間ぐらいジェンダー論を学んで来た人々が、科学に関するインタビュー記事の先生役と聞き手の性別や設定で、それを読んだ女子生徒の進路が定まるような話を展開しており、その雑な議論がネット界隈から非難を受けている。影響があるかないか分からない創作物の配役を気にするよりも、理工系の学問の楽しさや魅力などを伝える方がよほど効果がありそうなのだが、そういう発想には至らないようだ。
1. 創作物の配役が女子生徒の進路に与える影響は恐らく無い
創作物の配役が女子生徒の進路に与える影響は確認されていないし、むしろ影響を与えていないことを示唆する調査は多い。ジェンダー平等指数が高い国ほど女子の理系忌避が強くなる傾向があり*1、ジェンダー・ステレオタイプの強さが女子の理系忌避を呼び起こしていないと考えられる。最近の内閣府男女共同参画局の調査*2だと女子生徒の周囲は理工系進学を歓迎する傾向があるので、現在の日本に女子生徒に理系忌避を引き起こすほどの偏見があるかは怪しい。むしろ、家事や育児でフルタイム就業をやめる事を念頭において冷静に理工系を避けており、創作物の配役で何か影響を与えることは不可能に思える。女子の理工系進学を高めたいのであれば社会システム自体を変更し、女性が家事や育児を自前でするのが嫌になるようにしないと効果が望めない。
2. 理工系の学問の楽しさや魅力などを伝える方がまだ効果的
それでもあえて創作物に頼るとするならば、女子生徒に理工系の学問の楽しさや魅力などを伝える方がよい…と信じる。残念ながら無根拠だし、理工系に進学した女性の話を聞いても何となく興味があったぐらいの人が多いので、そんなに強い自信も無い。医歯薬看に進んだ人は、他と比較して、しっかりした人生設計が出来ていた。しかし、ジェンダー論を学んで来た研究者の多くは女性だし、自ら理工系の学問の楽しさや魅力が分かる本を読み込めば、その効果を感覚的に掴む事ができるはずだ。
女性研究者の伝記あたりからはじめるのはどうであろうか。ロールモデルがそこにあると興味を持つし、伝記のデキがよければ理工系学問にも興味を持てる。男性と比較すると数は少ないが女性でも歴史的な著名研究者は多くいて、例えば物理学徒であればリーゼ・マイトナーやエミー・ネーターの名前を知らない者はいない。マリ・キュリーのを読ませると、恋に生きそうな感じはするが。東北大の大隅典子氏や、環境工学者の中西準子氏の昔話も興味深かった。もちろん伝記だけ読んでも、彼女たちの仕事の魅力は十分に理解できない。ブルーバックスなどのポピュラー・サイエンス本で良いのだが、続けて彼女たちの研究分野に関する本を読むと、さらに理工系の魅力が理解できるようになると思う。
3. 自分が理工系の魅力を知らないと、論がおかしくなる
ジェンダー論を学んだ人々は、女の子が理工系に進むようにメディアはあるべしと言っているわけだが、メディアがどのような情報を流せば女の子が理工系に魅力を感じるのか、実は大して把握していないように思える。萌え絵や何かで減退するほど、安い魅力ではないのが理解できていない。だから、まずは自分で理工系の学問に携わってきた女性研究者の話を知り、さらに女の子にとって理工系がどういう魅力があるのかを理解した上で、メディアがどうあるべきかを論じて欲しい。反ワクチン派宣言をしている場合ではない。
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