2018年11月16日金曜日

ドイツ政治が何となく分かってくる気がする「アデナウアー — 現代ドイツを創った政治家」

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日本ではビスマルクからヒットラーまでドイツ近代史は人気なのだが*1、ネット界隈で現代史が言及される事は相対的に少ない。同じ敗戦国として日本と比較することがあるぐらいであろうか。ドイツは欧州の経済問題の元凶のように言われることは多く、現在のドイツの政治体制の原型が出来たのは時期なのだが、不人気だ。

個性的なキャラクターが少ないためかと思っていたのだが、まったく没個性の時代と言うわけではないようだ。二つの世界大戦を経験した73歳で戦後最初の首相に就任し、14年間その座にあった保守政治家コンラート・アデナウアーがいた。戦時の宰相ではないので地味ではあるが、ちゃんと「アデナウアー — 現代ドイツを創った政治家」と言う伝記もある。薦められたので拝読してみた*2

アデナウアー自体は外交に尽力する経済音痴な高齢の保守政治家と言う感じだが、その業績はドイツ基本法を制定に関わり、ドイツを中欧から西欧に位置づけ、西側結合への道に乗せるなど外交・内政に多岐に渡る。冷戦期に西ドイツが西側と言うのは自明に思えるのだが、ビスマルク以来の外交政策からすると、やはり大きな転換であった。経済政策では統制経済的な主張を行ない、党内の宿敵エアハルトの反対に屈する事も多かったようだが、確定拠出から世代間扶養方式に年金制度改革を成し遂げたりもしており、かなり大きな指導力があったことがわかる。

終章で著者がアデナウアー政治を総括しているが、独善的な政治家で、ドイツ国民を信頼していなかったと評されている。社会秩序の安定と自分の権力基盤の強化を優先しており、裏ではナチスの行為の犯罪性を自明とし、それを黙認したドイツ国民全員を断罪しつつ、表ではドイツ国民の集団的罪責を一貫して否定しつつ、旧ナチ党員層を政治に取り込んだ。与党の強い反対を押し切ってユダヤ人への補償スキームを策定しているので贖罪に無関心ではなかったのだが、ドイツ国民に過去の忘却を引き起こしたと非難されている。個人の力に任せた政治を行なっていて、政党を整備する意欲に欠けていたようで、退陣後、アデナウアーのドイツキリスト教民主同盟(CDU)は問題を抱える事になったそうだ。なお、年寄りなのに深夜になっても徹夜になっても会議で元気であったらしい。バレないで寝るテクニックがあったのであろう。

独特の小選挙区比例代表併用制*3などの制度分析をしている本ではないので、ドイツ政治に詳しくなれるわけではないが、雰囲気的なものはだいぶ分かってくる気がする。首相候補を決めてから内閣不信任案を出すので比例代表制度で与党が単独過半数に届かなくても首相の権限が強い。ドイツで保守と言うのはキリスト教的価値観を指し、メルケル首相も所属するCDUはカトリック主体であった中央党の流れを汲みつつ、プロテスタントを包摂した保守政党。文化的独自性の強いバイエルンだけキリスト教社会同盟(CSU)と形式的に組織を分けている。断片的な話で、断片だと言う自覚はいるが、断片でも知らないよりはたぶんマシである。

*1第二次世界大戦は現代ではないのかは定かではない。

*2以前のエントリー「ドイツ近代史を手軽に確認するための四冊」の続きとして匿名の誰かに薦められた。

*3議席配分を大まかに比例代表の得票数で決めた後、小選挙区での当選者から優先して当選枠を埋めていき、その後に比例名簿の残りの議員が当選する方式。比例代表制の一種と言えるが、比例の議席配分が不足していても小選挙区で当選した場合は超過議席が与えられるので、比例代表制とも言い難い。

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