2016年1月3日日曜日

ドイツ近代史を手軽に確認するための四冊

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自分と政治的意見が異なる人間を、安易にレイシストやヒトラーと罵る左派の人々はよく見かける。あまりに安易にレッテルを貼るので、レイシストのヒトラーがどういう行為を行ったのか、ヒトラーが権力を握るまでのドイツ政治がどのような経緯を辿っていたのか、どうも彼らは良く理解していないようにすら感じる。逆に、安易に外交的妥協を批判する人々もいるのだが、対外強攻策を突き進んでいったドイツがどういう結果になったのかが、顧みられていないのが気になる。そういう自分も流れとして追えているわけではないので、新書四冊でドイツ近代史を確認してみた。何だかんだと現代の政治や思想に影響を与えているドイツ近代史が、こういう事になっているのだと分かるので、ネット界隈の右派や左派の人々にお勧めしたい。

一冊目は『ビスマルク - ドイツ帝国を築いた政治外交術』で、ビスマルクの伝記ではあるものの、プロイセンが中心となってドイツ帝国が成立するまでの話が分かる。ビスマルクが国内世論の取り扱いに苦労しつつ、外交的にも決して長期展望に優れていたわけではない事が説明され、著者は外交におけるとっさの判断が天才的であったと評す。確かに民主主義に否定的な保守派なのに、ブルジョワの政治力を相対的に低くするために普通選挙を導入し、やはり議会運営に苦労するところなどコミカルではある。思想的には保守反動ユンカーであったが、当時は最先端であった新聞でのエッセイを通じて名声を得て成り上がり、リアリズムに徹して政治制度を構築していった。なお、外交的に行き当たりばったりと言うのは、かなり手厳しいと思う。欧州中部に位置するドイツが、東西から軍事的圧力を同時に受けないように、はっきりとした基本方針は持っていたようだ。

二冊目は『第一次世界大戦』で、ビスマルク引退後にドイツ帝国が消滅するまでの話が分かる。帝国主義的な植民地争奪戦の結果、サラエボ事件を契機に第一次世界大戦に突入したと思っている人が少なくないと思うが、最近は帝国主義が主因とは考えられていないようだ。個別の事件では列強国同士が妥協して妥結する事は多くあり、英国とドイツの経済的つながりなどを考えると、帝国主義的側面だけでは説明できない。当時は対外柔軟路線をとると列強国や一等国として見なされなくなると言う恐怖感があり、それで各国政府上層部が開戦に踏み切り、戦線の膠着と国民負担の増大から総力戦に突入して後に引けなくなって泥沼化したそうだ。不用意に宣戦を拡大して周辺国のほとんどを敵に回すドイツ帝国を知ると、常に外交タカ派の人々はリアリストでは無いことに確信が持てる。歴史にもしもは無いと言うものの、せめてフランスとロシアだけを相手にするようにして、ロシアと決着をつけた後にフランスと外交的妥協を行えば・・・と感じざるを得ない。また、経済的つながりから日中の軍事衝突は無いと断言している平和主義者も、楽天的過ぎる気がしてくる。なお毒ガスのみならず、鉄ヘルメットの導入などもこの戦争からで、軍事技術史的にも色々と興味深かった。

三冊目は『ワイマル共和国―ヒトラーを出現させたもの』で、新書とは言え1963年に出版された古典的な本。第一次世界大戦の終結から共和制に移行したドイツが、ナチス・ドイツのヒトラー独裁体制に移行するまでの経緯が描かれている。制度分析はほぼ無い。敗戦により民主制度が突然導入されたわけだが、保守も革新も民主主義に価値を置いておらず、政権与党の社会民主党でさえ、実際には革命などする気が無かったのに、社会主義革命の看板を降ろせなかったそうだ。他にも多額の賠償を負わされることになった講和条約であるヴェルサイユ条約の破棄を訴えてきた政党は、外交交渉でその実質負担がどんどん無くなっていっても、それを批判してきた政党は与党を含めて評価しなかった。著者は、党のプロパガンダに固執してしまい、国民の状態の良し悪しで政策を取捨選択できなかったと批判している。軽減税率にこだわる公明党を連想せざるを得ない。最終的には議会が内閣を組織できなくなってしまい、首相任命権のある大統領の権限が増大したところで、制度的欠陥をついてヒトラーが権力を掌握することになる。

四冊目は『ナチスの戦争1918-1949 - 民族と人種の戦い』で、ナチス・ドイツの無茶苦茶を記述した本。東欧からアジア的な民族を文字通り駆逐して、ドイツ人の生存圏を拡大する事が、ドイツ民族存亡の可否を握ると考えていたそうだ。何でも存立危機事態と言える好例である。新安保法案では存立危機事態がほぼ無定義で用いられているが、日本の「保守」の人々は、歴史を学んでいるのであろうか。また、ナチス・ドイツの行為と大日本帝国の行為には大きな差があることが分かる。戦前の日本人も周辺民族に優越感は感じていただろうが、これだけ組織的に虐殺や迫害を行ってはいない。『水晶の夜』のようなポグロムと同等の行為が、植民地下の朝鮮民族に対して行われていたような主張をし、こういう歴史的経緯があって出来たヘイトスピーチ規制を、そのまま日本に持ち込もうとしている「リベラル」は、歴史を学んでいるのであろうか。ところで、ナチスの経済政策が失業率を大幅に減らしたような言説をTwitter界隈でよく見かけるのだが、ナチスの雇用対策による就業者増よりも、第一次世界大戦中に出生数が大幅に減ったために新規就業人口が大幅に減ったことが要因としては大きかったそうだ(P.68)。Twitter民は、歴史を誠実に学んでいるのであろうか。

第二次世界大戦後はカバーされていない。また、取り上げられている時期は、ドイツの科学、工業、経済が大きく進展した時代で、政治思想としても自由主義や社会主義が広まっていった時期ではあるが、こういった面は詳しく語られていない。だから、この四冊を読んだところで完璧と言うわけではない。しかし、歴史的な政治の失敗を俯瞰するには、これぐらい読めば十分であろう。政治談議をするために、学ぶべき所は多い。実生活に役立つ事は、皆無だと思うが。

追記(2016/01/05 23:16):戦後史についての文献を紹介されたので、追記しておきたい:

  1. アデナウアー 現代ドイツを創った政治家
  2. ドイツ中興の祖ゲアハルト・シュレーダー
  3. 現代ドイツを知るための62章【第2版】
  4. 監視国家―東ドイツ秘密警察(シュタージ)に引き裂かれた絆

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