2018年10月5日金曜日

炎上しているのはキズナアイでは無くフェミニスト主張の根拠の無さ

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社会学者の千田有紀氏が、キズナアイ騒動での自己の見解を補足するエントリーをあげて、さらに批判を受けている。

ポエム調のゆるふわ作文で主張をとりづらいのだが、前のエントリーとあわせて考えると「メディアにおける女性の役割が、女子に既存の性的役割分担を認識させ、その進路に影響する」と主張しており、女の子キャラのキズナアイが「聞き手」を担当したのが理系忌避をもたらすと考えているようだ*1。この千田有紀仮説は成立しているのであろうか?

1. 女子アナやアイドルは女子の理系忌避の要因か?

性的役割分担の話なので、キズナアイではなく生身の女性でも同じ現象が生じるはずだが、女性アナウンサーがインタビューアになったり、女性アイドル・グループの存在することが、女子の理系忌避につながっていると言えるであろうか? — かなりの無理筋である。女子アナやアイドルは一般に目指せる職業では無いし、女子アナやアイドルが行なうような仕事以外を認めなくなるとも思い難い。ましてや、アニメ調キャラのキズナアイを模範とするのは考えづらい。プロ・スポーツが好きな男子は多いが、肉体で競うような職業に就く人は僅かだ。男性アナが聞き手になることもあるが、それの弊害も言われない。

2. 女子生徒は色々と考えて理文選択を行なっている

千田有紀氏は理工系に進学する女性が少ない理由に関する調査や研究を、少しは参照してモノを書いているのであろうか。内閣府男女共同参画局「女子生徒等の理系の進路選択にかかる意識について」を参照すると、将来やりたい仕事、興味・関心、成績で文理を決定する女子が多い。理系の進路選択に対するイメージを見ると、就職や職業、私生活、そして学習難易度や学費などが考慮されている。よい意味で打算的に文理を決定しているようだ*2

これは、日本だけの傾向ではない。「理工系女子のジェンダー平等パラドックス」として知られているのだが、ジェンダー平等指数が高い国ほど、理工系学部の女子の比率が低くなる傾向がある。女性差別が強い国では、女性は専門技能をつけることで職を得る必要があるが、男女平等の国ではその必要性が小さくなるので、女性は興味・関心に遵い非理工系学部に進学するようになると解釈されている*3。日本の女生徒は就職が厳しいと言われる人文系を志望しがちだが、何だかんだと就職できてしまうことが理由かも知れない。

3. 女子の理系志望に周囲は好意的

千田有紀氏は、以前から「女子は、空間図形ができないはず」「女子は、物理が苦手」などと中高の教師に言われ、『子ども時代を振り返れば、「理系ができる女子」への風当たりは強く』理系を志望しなかったと主張しているのだが、メディアでの女性の役割が中高の教師にそのような発言をさせたと言う根拠は無い。千田氏以外の女生徒が、その程度のことで挫けたかも定かでは無い*4。さらに、上述の内閣府男女共同参画局の調査によれば、女子の理系志望に周囲は好意的だと言う結果が出ている。

4. 表現の自由の定義が何か変

フェミニスト主張以外の部分も作文として問題がある。『「表現の自由」は重要』と言うが、それならばフェミニストが嫌う性的役割分担に基づいた表現の自由もあるべきであろう。また、「国家に介入されないように」「他者に配慮」するのは自主規制だが、自主規制であったら表現の自由が抑制されても問題ない理由が良く分からない。表現規制派と言われるのがつらいのは分かるが、自分がしたい事が何かは自覚して欲しい。

追記(2018/10/06 01:55):関連して千田有紀氏の市民的公共性の「市民的公共性」の使い方がおかしいと言う指摘がされている。そこでの説明を読むと、むしろ千田有紀氏の考え方が排除される可能性があるようだ。多数派がキズナアイの聞き手役を受け入れている現状、市民的公共性が導く結論は受容である。

5. 炎上しているのはフェミニスト主張

千田有紀氏はジェンダー論を専門とする社会学者でフェミニストであるはずなのだが、こうして見ると、思いつきを無根拠に並べ立てているようにしか思えない。これが、いつもの炎上芸をもたらしているのでは無いであろうか。フェミニスト主張を踏襲しようとしているのは分かるのだが、個々の議論が驚くぐらい根拠が薄い。記事のコメントを眺めても、納得がいかないのが理由だと思うものが大半を占めている。

*1『「科学に興味をもつ子ども」から、女の子が排除されていることが問題』と言うので、キズナアイの存在が科学記事から女子を遠ざけると言いたいのかなと思ったのだが、「NHKにキズナアイを削除しろとか、サイトを閉鎖しろとか言うことを求めてはいない」ともあるので、このように解釈するのが妥当だと思われる。

*2結婚後の私生活の負担や、就業意欲の減退については、多くの女子が過少評価しているそうだ。Kuziemko, Pan, Shen and Washington (2018)は、女性は出産後、労働供給量を落とすものの、そうなるまではそれを予測していないことを指摘している。

*3The More Gender Equality, the Fewer Women in STEM - The Atlantic

*4理工系では女子の比率が低く、クラス内で標本と揶揄されたりすることもあるのだが、それでも確かに女学生はいるし、それは千田氏の時代から変わらない。

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