2018年10月26日金曜日

女子の理工系進学は、必ずしも彼女の利益に叶うわけではない

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理工系に分類される学問に興味があって進学したい女の子を止めるべき理由はほとんど無い*1のだが、どっちでも良いな~と思っている人をナッジして理工系に放り込むのは止めた方がよいかも知れない。講義や実験がきつい、そして私学ならば学費も高めと言うデメリットがあるのだが、それらに見合う対価が得られない可能性がある。

最近出てきた研究を参照する限りの話だが、理工系の高い生涯所得は、出産・子育て期にかかる学部を出た直後の10年間に強く出る上に、専門技能を活かせる職にずっといないと文系との差が維持できない*2。出産と育児で職から離れることまで計算に入れると、対価に見合う教育投資になるかは分からない。男性ならば、ずっと外部労働を行ない出産・子育て期に勤務を中断することはないのが大部分なので、理工系で学ぶという投資を実利に結び付けられるが、女性の場合は期待収益率が低くなる。

そもそも女性は生得的に理工系が好きではないことが多い可能性がある。大規模なクロスカントリーの調査では、男女平等度が高まるほど男性と女性の人生における目標の差が大きくなることが示されており*3、実際に女性の進学者で理工系の比率は減る*4。苦労は大きく、利益が大きいとは限らず、さらに特に好きでもないものを押し付けるのは忍びない。さらに、女性は若い頃は子育て期の自分が家事や育児に割く時間を過少評価しがちで、理工系進学を過剰評価している可能性すらある*5

女性の進学に扉は閉じる必要は無く、理系に進学したからといって卒業後の人生が不利になるわけではない。特に国立大学の学部であれば文系とほぼ学費は同じだ。職業人を育成しないタイプの理系の家政学部は、家事や育児に比重が大きい人でも有益な知識が得られるであろう。本人が普通であれば、就職も特に悪いわけではない。さらに、歴史的な理由で統計差別が生じている可能性もある*6のでアファーマティブ・アクション的な施策を否定すべきとも言えない。しかし、最近の研究を垣間見るに、理工系を学ぶ女子が少ないこと自体を課題に挙げることに疑問が出てくる。とくに人数が女性過半でないと不正だというような某ジェンダー社会学者が言うような暴論は、受け入れ難い。

*1多額の公的補助が入る医学部では、問題だと思っている人が一定数いるわけだが、学生本人の利益と考えた場合はこれは無視できる。

*2Narrow STEM Focus In Schools May Hurt Long-Term - Education Next : Education Next

*3flip out circuits: 経済発展と男女格差の縮小とともに男女の追求する優先事項のちがいは大きくなる:Falk & Johannes (2018)

*4The More Gender Equality, the Fewer Women in STEM - The Atlantic

*5Kuziemko, Pan, Shen and Washington (2018)は、女性は出産後、労働供給量を落とすものの、そうなるまではそれを予測していないことを指摘している。結婚後の私生活の負担や、就業意欲の減退については、多くの女子が過少評価しているそうだ。家事や子育てをアウトソーシングできるだけの賃金を得ている女性医師でも似たような状況があり、出産・育児で専業主婦化/パートタイマー化すること、それを見越して部局を選ぶことが、日本に関わらず問題になっている(McKinstry (2008))。また、日本では女性医師は生涯未婚率も高めで、個人の幸福追求に問題が生じている可能性も低くない。

*6関連記事:そんなデータで男女間の統計的差異を認めてしまっていいと思う?

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