2018年8月12日日曜日

第一生命経済研究所のレポートにある日照時間による消費の推定について

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ついったーらんどで第一生命経済研究所首席エコノミスト永濱利廣氏が書いた「テーマ:不確実性の高いサマータイム効果」の中の日照時間による消費の推定式がトンデモ扱いされていたのだが、しっかり問題点を把握しない非難が多かったので、非難の方の問題を指摘した上で、推定の問題点を再整理し、推定をやり直した上で、推定結果の解釈について批判したい。弁護から入って、結局はdisる。

話題になっている推定結果は以下だが、つらつらと見て行こう。

1. 不適切だと考えられる非難

一般線形回帰(OLS)だから稚拙だという非難があったのだが、教科書の最初の方に載っている技法が不適切とは限らないので、これは批判になっていない。論文などでOLS以外の技法を使う事が多いのは、対処しないといけないバイアスがあったり、非線形モデルの推定を行う必要があるからだ。線形モデルで、同時性(内生性)や不均一分散などの対処すべき問題が無ければ、OLSで良い。なお、固定効果モデルなど、結局はOLSと言う手法もある。

時系列モデルだから系列相関や単位根の問題が残り、疑似相関になっているのかと言う指摘もあったが、ダービン・ワトソン比は1.970と2に近く系列相関の可能性はほぼ無いし、変数名に⊿があるので一階差分をとってあると考えられるので単位根があるとも考えづらい。単位根検定をしっかりした方が良かった*1と思うが、これでダメ推定とは言えないであろう。

自己回帰モデルにしないと有意になりやすいのではないかと言う指摘があったが、ラグ項と他の説明変数の共分散がゼロであるという条件が満たされていれば、一致推定量である一方で、誤差項が大きくなって有意になりづらくなるので、疑似相関で騙しているとも言えない。また、マクロの時系列モデルでは自己回帰モデルが一般に使われるが、自己回帰モデルが妥当とも限らない。

対数をとっている理由が分からないと言う指摘があったが、これは推定モデルの定式化の問題で、コブ・ダグラス型の効用関数を置いて、そこから消費関数を双対問題を解いて導出している(か、それを念頭に置いている)ためだと思われる。コブ・ダグラス型関数は、係数によって説明変数の効果の弾力性が簡単に分かって便利であったりするので、あっさり推定したいときにはよく使われる。対数をとると線形化できるので、回帰分析もしやすい。この関数が妥当かは議論の余地があるが、可処分所得の上昇に応じて、日照時間が誘発する消費量も増える定式化が悪いとは言い難い。

2. 適切な批判と他の問題点

同時性(内生性)の問題がある*2。消費が増えると可処分所得も増えるので、被説明変数が説明変数に大きく影響していて、OLSの前提条件を満たしていない。操作変数を探してIVなどにするか*3、可処分所得は被説明変数の前年の値を使うなりすべきであろう。

t値1.479では、日照時間の係数の有意性があるとは見なせないと言う指摘があって、これは頻度主義者として真っ当な指摘である。ただし、ベイジアンが予測区間を求めるのに使うのであればアリかも知れないし、後述するが推定方法に修正を加えたら10%有意は得られた。

3. 推定のやり直しで有意性を捻り出す

_masaka氏が整理してくれたデータセットを用いて、同時性(内生性)の問題を解消しつつ、有意性を出すべくp-hackingを試みよう。可処分所得を前年の値にしつつ、コブ・ダグラス型の関数を捨てる。これによって、不均一分散が出る可能性が増すが、Breush-Pagan testを行ない不均一分散とは言えない事を確認する。また、「1980~1993年は2000年基準(93SNA)、1994~2016年は2011年基準(2008SNA)である」そうなので、不連続点になる1994年はデータセットから除いた。

自己回帰モデルのほうが当てはまりはF検定で有意に良いが、Δ消費とΔ可処分所得の相関係数は0.8と高く、観測数35を加味すると、多重共線している可能性が高い。Δ可処分所得の分散拡大係数(VIF)は4.88である。Δ日照時間はどちらも有意にプラスだが、モデル(2)を採用することにする。

自由度調整済重相関係数は0.77と良好(すぎる?)。Breush-Pagan testは、P値0.678で均一分散を棄却しなかった。不均一分散では無い。(永濱(2018)と異なり)純貯蓄が減少気味の方が消費が増えると言う難しい傾向を示しているが、貯蓄を減らして消費を増やす高齢化の影響と考えれば説明がつく。Δ日照時間は有意にプラスだが、Δ最終消費支出への寄与率は4.42%となっており、Δ前期の可処分所得80.39%と比べると微々たるものである。

三重大学の奥村氏がグラフを描いて感覚的に日照時間と消費の関係を見ようとしていたので、一応、グラフもプロットしておく。

増えると言えば増えるかな~?と言う程度ではあるが、影響はある。

4. 二段階最小二乗法を使わない理由

一期ラグ変数を用いたOLSは、日照量の影響を示す目的では間違いではないが、二段階最小二乗法(2SLS)を使う方が、当期の消費と当期の可処分所得の関係が見られるので解釈が容易になる。しかし、2SLSは多重共線性を持ちやすく標準誤差を大きくする傾向があり、OLSと比較して検出力が落ちる。実際、観測数35と言う小標本なので匙加減が必要だ。気力の都合で推定結果の表は省略するが、前期のΔ消費とΔ可処分所得とΔ純貯蓄を操作変数に使ったTSLSでは、Δ日照時間の係数に大きな変化は無い一方で、係数の有意性が無くなった。もっとサンプル・サイズを by ゲーテ。なお、丁度識別ではないが、過剰識別検定は棄却されない。

5. 日照時間の長さが需要拡大をもたらすと言えるか?

日照時間の解釈が長いと、なぜ総消費が伸びるのであろうか。需要面では「娯楽・レジャー・外食等への出費増を通じて経済効果をもたらす可能性」が指摘されているが、供給面の理由もあり得る。日照時間が長いと、建設工事が進んだり、農作物の育ちが良かったりして、当期の可処分所得を拡大する効果もあり得るからだ。当期可処分所得の増加は、当期の消費も増加させるであろう。ただし、Δ可処分所得に対する回帰分析では、Δ日照時間の係数は有意性のない負の符号であった。係数も消費への影響よりも小さい。この推定からは、消費促進効果はあると解釈するのが妥当になる。

もっとも同時推定できているわけではないので、言えなくも無いぐらいに捉えておかれたし。

6. サマータイムの効果を表していると言えるか?

この分析、外が明るいから消費が増えるかについては、何も言っていない。冬場の晴れた日の消費が増えるのかも知れないし、夏場の晴れた日の夜の消費が増えるのかも知れない。雨では花火は中止になる。サマータイムの導入による経済波及効果の既存試算としては、日照時間の増加がどのような消費を喚起したのかより注意深く検討すべきである。

7. まとめ

永濱(2018)の推定方法自体は、ついったーらんどで悪く言われているほどひどくは無い。日照時間が消費に影響することは言える。厳密にはう~んと言う面もあるが、

従って、当社が想定する程の経済効果が発生しない可能性も十分考えられるだろう。なお、今回の試算に当たり種々の仮定を置いていることから、経済効果の額に関しては十分な幅を持って判断する必要がある点についてはご留意いただきたい。

と言い訳しているわけで、騙す気も無いわけだし。一方、サマータイムの導入による経済波及効果の既存試算の係数として使うには、中身をもっと検討すべきで問題がある。点推定ではなくて予測区間を出したほうが親切ではないかなとも思うし。

*1被説明変数になるΔ最終消費支出は、Phillips-Perron Unit Root Testで10%有意で棄却される。系列も長くないので、だいたい大丈夫と言うことで…って途中で分断があるのにコレをやっていない(;´Д`)ハァハァ

*2後述するTSLSの分析時、Wooldridge(2002, p.119)の方法に従って内生性検定を行ない、疑われる事を確認している。

*3院生であれば、見栄えから差分GMMやSystem GMMを振り回すことになる。たぶん。

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