なぜか日本に北朝鮮工作員が実在する根拠として、タブロイド誌の北朝鮮が潜伏中の工作員向けに乱数放送を再開したと言う記事*1にリンクを貼ってしまい、ネット界隈でバカにされている国際政治学者の三浦瑠麗氏だが、北朝鮮工作員の存在が露呈したと言う新聞記事は多々あるし、昔の警察白書をひっくり返しても記述がある。
1. 北朝鮮のスパイ活動に関する話は昔から色々ある
昭和57年の警察白書の第7章に、北朝鮮のスパイ活動に関する記述がある。(1)工作員が不法入国をし、北朝鮮に縁故がある家庭もしくは日本人の協力者宅に滞在する事例と、(2)在日韓国・朝鮮人を勧誘して北朝鮮で訓練する事例が紹介されている。他に新聞等の報道では、(3)韓国に亡命した脱北者が日本にやってきて活動していた事例*2や、(4)北朝鮮と結託した朝鮮人経営者に勤める身寄りの無い従業員を北朝鮮に拉致し、工作員とすりかえるようなスパイ小説染みた話*3も報道されている。
脱北者が入国する事例以外では、どれも工作船を利用したと見られるので、2001年の九州南西海域工作船事件、つまり小泉政権時の不審船撃沈以降、同様の侵入は難しくなっているのではないかと思うが、北朝鮮船籍の漁船が流れ着いているのが発見されたりするぐらいなので、完全に封鎖できているとも言えないであろう。2018年現在でも北朝鮮がやろうと思えば、日本に工作員を潜伏させておく事は不可能ではない。無根拠で差別を煽っていると言う人もいるが、直接の証拠でなくても傍証は多くあると言えるであろう。
2. 北朝鮮工作員が何をし出すかについては三浦氏の憶測
もちろん、三浦瑠麗氏の主張が全面的に妥当と言うわけでもない。北朝鮮工作員が、大量に武器や爆薬を保持していたという事件は報じられていない。工作船で北朝鮮にいって3ヶ月訓練を受けて戻ってきたが、スパイ活動はしなかったと言う証言がある*4のだが、工作員も主体思想に心酔しているわけではないから、自殺になる行為は勿論、罪悪感を生じやすい殺人やテロは命令を拒絶し、さらに警察に自首してしまう可能性がある。訓練期間も数ヶ月と短く、在日韓国・朝鮮人や日本人をスカウトし、決死の戦闘員として原発を占拠させるのは無理がありすぎる。
そもそも、体制存続を望む北朝鮮が、日本で大規模テロを起こすべき状況は起きるであろうか。現状では、工作員を失い諜報活動に支障が出るし、日本の防衛政策の転換を招きかねない。米国が空爆するか地上部隊を投入しているときは、米軍の作戦遂行を妨害する効果があるかもだが、日本が米軍の背後から出てきて直接軍事行動を取るようなる可能性や、北朝鮮の体制崩壊が日米韓の目標に切り替わる可能性もある。米軍が核戦争になって北朝鮮の殲滅を成し遂げているとすれば、何をしても無駄である。
3. 実行に移す可能性は低くても、能力はあるのでリスクはある
北朝鮮で訓練を受けた工作員が日本を徘徊できる以上、北朝鮮工作員が破壊工作に従事する可能性はあるにはある。大韓航空機爆破事件やラングーン事件など日本国外での実績はあるし、過去の日本のテロリストやカルト教団よりも高度な知識や装備、作戦遂行能力があるので脅威だ。非モテ依存性パーソナリティ障害者に工作員（異性）を接近させて依存さしてスリーパー・セルにして、毒ガスやウイルスの噴出装置を入れた紙袋か何かを持たせて地下鉄に乗せ、本人に知らせることなく自爆テロを実行させるぐらいは準備すればできるであろう。
4. 在日韓国・朝鮮人の迫害につながるか、つなげるべきか
三浦瑠麗氏の指摘が在日韓国・朝鮮人の迫害につながると言う主張をしている人々が多くいるのだが、その根拠は弱い。北朝鮮のスパイ活動に関する話は昔から色々ある上に、朝鮮戦争中の1952年に朝鮮人と共産党員が軍需工場を襲撃した枚方事件もおきているが、在日韓国・朝鮮人の差別や迫害がエスカレーションしたわけではない。
拉致事件が明らかになった余波か、近年になって在特会が朝鮮学校への名誉毀損や業務妨害を行なったが、これは司法により処罰された。「朝鮮学校が、犯罪行為を担う工作員に教員という社会的地位を与え、若者を新たな工作員候補として発掘する場になってきた」と言う指摘がされていても、この程度である。
そもそも在日韓国・朝鮮人の隔離や排斥は、北朝鮮のスパイ活動の有効な手段になるかは分からない。日本人と朝鮮人の間には身体的に大きな特徴はない。大韓航空機爆破事件の実行犯は日本人に扮していた。当時は微妙に日本人になりきれていなかったが、インターネットで日本の情報は取り放題である。在日韓国・朝鮮人を排斥しても、日本人に扮した北朝鮮工作員が潜伏するだけであろう。西新井事件では、日本人に成りすましていた。
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