2018年2月9日金曜日

良いモノを作る必要に迫られると、良い機械や良い労働者を投入する

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当たり前に聞こえることでも、個別企業の事例ではなく産業全体の話になると、経験的に示されていないこともある。輸出企業は、高品質の製品を作り、新しい技術に投資をし、高い賃金を払い、さらに労働環境の改善に取り組む傾向が知られているが、その理由は理論的には色々と言えるものの、経験的には良くわかっていなかった。そこで、非EUのデータを使って計量分析にかけてみたところ、輸出先の品質要求が厳しい説が支持されると言う話が紹介されていた*1

理論的によく知られている説は三つ。輸出企業の生産物は規模経済性があるので投資に熱心になると言う説と、輸出先の市場の品質要求が厳しいので投入要素の品質も挙げざるをえない説、輸出には輸送費がかかるので付加価値をつける必要がある説。この三つの効果をそれそれ測るとなると、大仰な計量分析をしているように思うが、操作変数法で片付けている。

具体的に何をやったかと言うと、為替レートの変動を外生変数として使って因果の向きを特定し、輸出先バスケットの初期平均所得と輸出企業の投入要素価格の相関を見出している。為替レートが変化したら輸出先バスケットも変化して初期平均所得も変わるから、投入要素価格を説明する推定式の操作変数として使えるというアイディア。胡散臭く感じるかも知れないが、元論文のBastos, P, J Silva and E Verhoogen (2018)は、性格の悪いレフリーが吟味するAERに掲載される。

結果は、初期平均所得の影響が有意かつ頑強に観察された一方で、輸出先までの距離や輸出企業の総売上の影響は状況次第でしか観察されなかった。ここから、良いモノを作る必要に迫られると、良い機械や良い労働者が必要になると結論できるそうだ。日本の輸出企業が輸出先の市場にあわせるために、あれこれ苦労した逸話が紹介されるのを見たことがある人は多いと思うが、これで、そういう逸話が一般的傾向の一つであると言い張れるようになったようだ。

*1Upgrading outputs means upgrading inputs | VoxDev

VoxDevの推定方法の説明では把握できなかったので、そこはDPを参照した。

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