2017年8月6日日曜日

計量分析をすると、首相辞任のトリガーは内閣不支持率

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何かと話題の安倍内閣の支持率だが、韓国政治が専門の木村幹氏が『近年の政治状況において重要な「内閣支持率-与党支持率」はまだ16%以上のマージンを持っているので、与党内の反発により政権がゆらぐ状況ではない』と言う話をされていて、その指標が重要なのは本当かと思って検証したらそうでもなかったので報告したい。大半の人には「知っている」と言われそうなのだが、近年のデータを見る限り、首相辞任のトリガーは内閣不支持率だ。

2. はじめに

御説はKimura (2007)にまとまっているそうだが、木村幹氏だけがこの事を言っているわけではなく、Burden(2005, 2013)も相対支持率:内閣支持率-与党支持率が、内閣改造や首相辞任の確率を高めると議論している。ただし、Burden(2005)の方を参照する限り、この論文はデータの取り扱いや推定方法に不適切な箇所が色々あって、経済学の一流査読雑誌であったら確実に掲載拒否される程度の話になっている*1。たまたま内閣支持率と雇用の関係をみたときのデータセットが残っていたので、計量分析をかけて検討してみた。

2. 検証仮説

まず、話題の相対支持率:内閣支持率-与党支持率はグラフで動きを確認しておこう(下、クリックで拡大)。首相が辞任するときに、この値が低くなっていると言うのが、政治学での主流説のようだ。

この相対支持率の予測力がメディアなどで話題になる内閣支持率(下、クリックで拡大)よりも高ければ、相対支持率が重要と言うことができる。見た目で違いは・・・よく分かりません。

他のどの説明変数よりも説明力があれば、政治学の叡智と認めるのはやぶさかではない。どうやら高級な理屈もついてくる。

3. データセット

小渕政権誕生の1998年8月から2017年5月までの内閣支持率、内閣不支持率、自民党、公明党、民主党のそれぞれの支持率を「NHK 政治意識月例調査」から持ってきた。支持率と言う数字は、経済環境や政治混乱など全ての要素を反映するため、説明変数はこれだけにする。首相が辞任した年月日はWikipediaを参照した。支持率が下がっていても、辞任ではなく総選挙で負けて任期満了になった場合は辞任として扱わない。病死された小渕氏も、当然、辞任したとは見なさない。相対支持率は内閣支持率-与党第1党支持率で定義し、青木率は内閣支持率+与党第1党支持率で定義した。与党支持率は、自民・公明連立内閣の場合は、二つの合算値としている。

省くとエコノメ人が怒るので、また推定結果が変なときに参照すると役立つときもあるので、説明変数の基本等計量を確認しておこう(下、クリックで拡大)。

説明変数間の相関係数も確認しておこう。こちらも観測数が膨大にないときは、多重共線性の呪いがないかの目安になる。実際、今回のデータは相互の相関係数が高いので、複数同時に用いない方が望ましいようだ(下、クリックで拡大)。

なお、分析期間中の任期満了・病死ではない首相の辞任は5回。そのときの平均は、内閣支持率が20%、不支持率が68.2%、与党支持率が26.4%、与党第1党支持率が24.0%、相対支持率は-0.04%、青木率は44.0%となっている。

4. 推定方法

二項選択モデルのうち、プロビット・モデルを採用した。説明は要らないであろうが、書き足すかも。

5. 推定結果

推定結果は以下の表の通りである(下、クリックで拡大)。説明変数は全て有意となった。AIC:Akaike Inf. Critで説明力の序列をつけると、内閣不支持率>内閣支持率>相対支持率>青木率>与党第1党支持率>与党支持率となった。なお、民主党の時代を外したり、与党ダミーを入れたりしても順序は動かないようだ。昔のデータが無いので詳しい事はわからないが、Kimura (2007)と分析期間が異なるのが理由かも知れない。

追記(2017/08/07 03:34):相対支持率は同じウェイトで合計した合成変数だが、ウェイトを変えたら説明力が上がる可能性もあるので、内閣支持率と与党第1党支持率を同時に説明変数として用いてみたが、特に説明力は上がらなかった。AICは自由度×2の項があるので、-7.764*内閣支持率 + 1.904*与党第1党支持率と言う説明変数を作って推定すれば、そのAICは35.893になるわけだが、内閣不支持率の33.331には及ばない。

6. 終わりに

勢いで推定してみた。反省はしている。なお雇用改善が内閣支持率を引き上げるか分析した結果は、政治学徒に全スルーされているので、本稿もスルーされる見込みである。どっかに投稿しろと言う話かも知れないが、政治学は知らないので論文になる見込みは無い。

*1著者が見えないところでdisっていても仕方が無いのだが、

  1. 時系列分析を厳密に運用していない。まず、水準データの単位根検定を行なっていないのに、水準で回帰している。次に、共和分が無いことを前提としたVARをしているのに、共和分があることを前提としたエラー訂正モデル(ECM)もしている。
  2. 内閣支持率と自民党支持率の関係を論じているのに、非自民党政権期も分析に加えている。分析期間は1960年6月から2004年12月までの月次データだから、(2004-1960+1)*12-5=535ヶ月分、差分をとって534になる。しかしNumber of Cases(531~534)となっており、細川・羽田内閣も自民党に入れられている
  3. 統計的にモデル選択が行なえていない。説明変数の有意性があるものを選んでいるが、AICか尤度比検定を用いて選択すべき。Table 5はともかく、Table 6の解釈にかなり問題がある。すると、{内閣支持率-自民党支持率}が大きくなっても、首相辞任は支持されず、内閣改造に影響があるとしか言えない。
  4. 説明変数の選択の正当化が無い。多重共線性を考慮しないで、相関係数の高い説明変数を同時に用いている。日経平均のように長期的に銘柄が変化して意味が変化してしまう指標は、何十年ものデータ分析には不適当であろう。VARとECMで使っている説明変数に一貫性が無い。(これは趣味に近いが)基本統計量や説明変数間の相関係数なども示されていない。自民・公明連立期間にダミー変数が設けられていない。
  5. 自由度調整済決定係数が0.980と奇妙に高いので信じていいのか良く分からない。個人的な経験ではダミー変数でだいたい説明できてしまうときにこのような推定値になるのだが。

と言うような問題がある。インフレと雇用が直感的な効き方をしているので、参照したい感じではあるのだが。

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