2017年8月16日水曜日

地下鉄の科学 - トンネル構造から車両のしくみまで

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地下鉄は現代的な大都市には必ずある身近な交通機関なのだが、公共交通機関の中では地味な扱いである。地下だけに写真も撮りづらいから撮り鉄も被写体としづらいようだし、路線網だけに狭いスポットから全体を見渡せるわけでもないので、巨大建造物が大好きな30代以降の自称少年/少女も、わざわざ地下鉄を見に行こうとは行かないようだ。しかし、列車を地下に走らせるには穴を掘らないといけないし、視界が悪く密閉されているので運行上の危険も増す。少し知識を深めると、面白みが出てくるかも知れない。

そういうモチベーションで、「地下鉄の科学 - トンネル構造から車両のしくみまで」を読んでみた。科学ではなくて工学、副題から章を立てて話がある運行システムの話が抜けているのが気になるのだが、浅く広くトピックをカバーしていて門外漢には丁度よい。穴を掘るのが技術的・経済的に大変で色々な土木技術が使われていること、信号網にしろ排熱/空調にしろ火災対策にしろ視界の悪い密閉空間での列車運行は難易度が高い事が分かる。

短いながらロンドンの地下鉄で電車でなくて汽車を走らせていた無理がある時期があるなど、技術史的にも意外な話が紹介されている。加速・減速性能と静穏性の向上を狙ったゴムタイヤ式が、リニアメトロでそのアドバンテージを失うものの、リニアメトロ自体も従来方式と(著者の意見ではだが)大差ないなど、技術選択の難しさも分かる。特に鉄道は一度導入した基幹技術は、なかなか更新できない。

工学者ではなくライターが書いているので、専門書独特の読みづらさはない。「七年目の浮気」でマリリン・モンローのスカートがめくれ上がるシーンが、地下鉄が通過するときに空気が圧迫されて地下から吹き上げる風を再現したものだと分かるし、東京の地下鉄の経営史はもちろん、丸の内線は開削トンネル、大江戸線はシールドトンネルと日常生活が楽しくなる知識も身につく。ただし、JR神田駅と東京メトロの連絡通路の階段の天井の低さについては、謎が残った。

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