2017年3月27日月曜日

地下水に関する環境問題が分かる本

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豊洲市場の地下水の汚染が話題なのだが、同種の話を良く知らなかったので手軽なアンチョコとして「地下水の科学」を拝読した。その重要性、構造や性質、利用史、枯渇や汚染やその他環境破壊について網羅的に紹介された本。日本地下水学会が環境問題を取材してきた共同通信社の科学部記者に書かせたもので、環境問題の側面から地下水を捉えたい人に丁度よいバランスになっている。科学とあるが、学問的な話は事細かには書いていない。築地市場移転問題にはほとんど関係が無いが、読んでおいて悪くない一冊。(目次や構成と合致しないが)以下のような話が取り上げられている。ただし、日本はともかく世界はどん詰まり感がかなりあるので、鬱のときは読まない方が良いかも知れない。

1. 地下水は重要な地下資源

臨海でもなければそこらに井戸が湧水があるわけだが、小学生のときに多摩川水系や利根川水系と言った居住地の水道の取水先を教わるせいか、地下水が主要な水資源と言った認識は持たないと思う。実際、日本においては依存度は高々10%超に過ぎない。しかし、飲料、工業、農業、漁業と広い用途で使われており、熊本など地域によっては依存度は高い。世界を見るとその依存度は過半を超える。米国の穀倉地帯なども、地下水によって支えられているため、輸入を考えると究極な依存度はもっと高くなる。

2. 化石水など被圧地下水は回復しない

地下のいたるところに水分はあるわけで、地下水に明確な定義は無い。しかし、水分が飽和状態になっている、水の通りのよい帯水層にある水を指すことが多いようだ。最近の雨水が涵養してできる水圧が大気圧と同じで流速が速い不圧地下水と、場合によっては数万年前の降水・海水・マグマ由来の水分などの化石水によって構成される不透水層に挟まれた被圧地下水に分かれる。水資源として被圧地下水は供給がほぼ無いので過剰利用で枯渇しやすく*1、それで不透水層や帯水層の収縮を招いて地盤沈下も発生する。また、枯渇するだけではなく、オーストラリアの大鑽井盆地のように、その成分によっては塩害などを生じさせる事がある。

3. 地下水も工業・農業・生活排水で汚染される

地面にある汚染物質は地下に浸透していくため、地下水が汚染される事もある。米国のシリコンバレーでトリクロロエチレンやテトラクロロエチレンなど揮発性有機化合物が地下に浸透して問題になった事が広く知られているが、窒素肥料の残留や生活排水が原因で硝酸性窒素汚染が進むこともある。日本では宮古島で農業原因の硝酸性窒素汚染が問題になった。バイオレメディエーションによる浄化が効果的と言う話もあるが、地下だけにこれらを除染するのは困難な事が多い。天然由来の“汚染”もあって、南アジアでは砒素が地下水に含まれ飲料に適さないことが多いらしい。日本でも地熱発電所の熱排水に砒素が大量にあり、廃棄物が問題になっている事例はある。逆にレアメタルが含まれていてウハウハな国もあると言うのに(関連記事:地熱発電所の排水が新たな鉱脈になる)。また、地球温暖化で降水量が変化すると、それ以上に地下水の量が変化する。

4. 地下水の理解と利用は進歩している

地下水の問題は色々とあるが、その歴史はそう長いものではない。地下深くの被圧地下水まで井戸が掘れるようになったのは最近で、それも機械で取水するまでは地盤沈下するほどの利用はできなかったからだ。人力掘削最強と日本が誇る上総掘りも明治に入ってからのものだ。地下水の理解が進んだのも最近で、実験などでダルシーの法則など地下水の動きが理解されるようになり、さらに環境放射能測定による地下水年代の推定などで、水の動きのトレースが可能になった事が大きく貢献している。冷戦期の核実験で出てきたトリチウムも役立っている。今では地下の三次元構造を解析し、環境を維持した状態で利用可能な地下水の量を計算できるそうだ。淡水ダムなどで利用可能量を増やそうと言う試みもあり、今までは利用が難しかった透水性の岩石からできている離島の地下にあるレンズ状の淡水を利用する話もある。地下水資源の管理意識も高くなってきており、地下水の公共性が認められて来ている他、(日本には関係ないが)国連が国際レベルの越境地下水の管理のあり方をまとめている。

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