2016年10月31日月曜日

貧困層に出納帳をつけてもらって分かったこと

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ネット界隈で貧困問題が熱く語る人は多いのだが、実は良く分かっていない事も多い。低収入なのは確かなのだが、一般に何に幾ら支出していて、どういう遣り繰りをしているのか、分かる統計は意外にないものだ。国際援助を受けている開発途上国でも同様のところがあるのだが、貧困層に出納帳をつけてもらって*1その実態を明らかにした人々がいる。PORTFOLIOS OF THE POOR(邦訳:最底辺のポートフォリオ)は、その成果をまとめたもので、足場のしっかりした議論が展開されている。日本でもテレビ番組で妙な事例を紹介する前に同様の取り組みを行なえば良いと思うのだが、それはさておき、内容を簡単に紹介してみたい。

何章にも渡って事例が色々と紹介されていて、かなり分量のある付録に具体的な集計データとその取り方が細かく紹介されているのだが、本書の議論はそう複雑な話ではない。貧困層は事故・病気・冠婚葬祭などの大きな支出がある度に、即応性のある細かい借入を中心に様々な金融サービスを組み合わせ、消費平準化をしている俗に言う自転車操業状態なので、これを認識した上で貧困層に金融サービスを提供すべきと言うのが本書の主張である。

マイクロファイナンス批判もされている(第6章他)。ノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌスがグラミン銀行を設立して行なってきた貧困緩和として広く知られているが、初期のマイクロ・クレジットは低利であっても硬直的で即応性が無いために、貧困層のニーズに合っていなかった。また、マイクロ・クレジットは零細事業資金を提供することで収入を増やすと言う理念があるわけだが、実際には消費平準化に多く使われており、これは現実との乖離が見られる。

預金口座の提供は、よく機能していると言われる。何かに備えて貯蓄をするのは有効なポートフォリオだが、貧困層は預金口座を持てず、強盗や盗難などから貯金箱も有効ではない。葬式保険のような金融サービス(第3章)や、全員が出したお金を順番に一人が使う無尽のような制度(RoSCA; 第4章)もあるのだが、そう便利なモノではない。貧困層に有効な貯蓄手段が無く、預金口座の提供が貧困緩和策として機能することは、類書でも良く指摘されていることだ。

こういう事実を踏まえた上で、第7章であるべき貧困層向けの金融サービスについて議論をしていて、収入変動のマネジメントと大きな支出に備えた貯蓄を支援するサービスを提供し、小口融資も消費平準化に使われる事を公認すべきだと主張している。信頼性、利便性、柔軟性、自己規律のためのナッジ(Structureとある)、人口過疎地域に対応するためのマイクロファイナンス機関(MFI)の技術進歩といった細かい点も改善もしくは必要な事項として挙げられているが、貧困対策は夢ではなく現実を追えと言っていると理解してよいであろう。

開発途上国の貧困層を扱った類書と比較すると、話題は金融に絞られていてピンポイントで狭く、流行だったランダム化比較試験による政策効果の研究を参照していない点が特徴になると思う。"Poor Economics"(邦訳:貧乏人の経済学)では広範囲の話題を扱っていたし、マイクロファイナンス批判でもそもそも零細事業の拡大余地が無いことなども指摘されていた。金融と言う観点でも、子供が老後のための蓄えの代替手段になることなどの視点は、本書では欠落している。"MORE THAN GOOD INTENTIONS"(邦訳:善意で貧困はなくせるのか?―― 貧乏人の行動経済学)も、もっと様々な事例の政策効果の紹介に比重が置かれている。

*1実際は調査チームが一年以上の期間をかけて15日間隔で聞き取りを行い出納帳を作成した。付録1に詳細が記載されている。

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