2015年6月28日日曜日

物理学にそんなに興味が無い人向けの重力の本

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物理法則から逃れられる人間はいないわけだが、物理学をせっせと勉強するほど興味が無い人は多いと思う。物理学は実証に基づき高度に理論化されたハード・サイエンスだし、学習コストが低いわけでは無いからだ。特に一般相対性理論や量子理論になってくると、一見さんお断り感が強い。数学の教科書でロバチェフスキー空間やローレンツ群や分数変換群をちょっと勉強した人はそこそこいると思う*1が、シュヴァルツシルト半径を計算してみた人はごく僅かであろう。

物理学に心惹かれないわけではない。小説や漫画やアニメやゲームには物理用語が溢れているが、ファンタジー要素を除いた部分がどうなっているかはやはり知っておきたいものだ。しかし、教科書で数式を追いかける気力には欠ける。何を読めばいいのかすら、調べる気がしない。教科書を読んだところで、理解できる可能性はほぼ無い。そういう現実を前に、様々な媒体で物理用語が使われるのを無為に受け入れているわけだ。こういう状況を、ほんの少しだけ改善してくれる本が少し前に出ていた。「重力とは何か」だ。

著者の大栗博司氏は理論物理学者で、最前線で研究しながら一般書も書く無理をしている人だ。理系で一流の人が一般書を書くのは、一線を引いた後が多い。だから内容に、サイエンスライターが書いたときのような大きな語弊は無いと信じてよいと思う。その一方で学者が書いた一般書では、数式を使った細部の説明にこだわるモノが少なくないが、本書はほぼ完全に数式を排除している。その割には話の筋道が分からなくなる事がない。著者は日ごろから直観的な説明を練り上げているのであろう。重力を主題に、相対性理論、量子理論、超紐理論の概要とこれらの関係が整理されている。一般向け学説史と言って良いであろう。

妙に重力が大好きなアニメ「シドニアの騎士 第九惑星戦役」が終わったところで読んだので、タイトルに重力が入っているのが良いなと思って読んでみたのだが、ラノベ感覚で読みきることが出来て本当に一般書だった。物理史的に重要な実験や観測が理論モデルに与えた影響もそう堅苦しく無く書いてあって、SFで地球外生命体の正体を考える風に読める。もちろん、くりこみ理論で物理学で都合が悪い無限大の計算を回避できる事に触れていても、それがどの様な細工になっているのかは全く触れられていなかったりするし、超紐理論の紐は本当に輪ゴムのようなものなのか数式はどうなっているのか等々、色々と考え出すと気になって夜も寝られなくなるが、今まで独立した三つの理論だとしか認識していなかったモノの関係が、研究されているのを知ることが出来ただけでも面白かった。

本書を読むまではマイクロな方向にも、マクロな方向にも理論物理は観測上の問題から限界があって、閉塞感があるのかなと思っていた。ヒッグス粒子が予言されてから発見されるまで、50年ほどかかっている。加速器の大きさに限界があることから、今後の実験にも限界はあるように思える。しかし、それは素人の思い違いだったようだ。それを支える観測結果は間接的なものしか得られていなくても、なんだかんだと研究は進んでいるらしい。もはや距離空間でもないらしい物理理論がどんなもんか想像もつかないが、気づくと人類の英知はずっと遠くに来ていたようだ。この本が出てから3年が経っているわけだが、今ではもっと先に行っているのであろう。

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