2015年6月17日水曜日

安保法案に関して後釣り宣言をしないためのアンチョコ

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大多数の憲法学者が国会で審議されている安全保障法制は違憲と指摘していることに関して、経済評論家の上念司氏が要点を得ない主張を行い炎上し、さらに後釣り宣言を行って人気だ(togetter)。必要なのに違憲なのが問題ならば、憲法改正を主張すれば良いのだが。どうして違憲になってしまうのか分からないので、憲法学者を闇雲に批判をしてしまったのであろう。SNSで上念氏のようにならないために、アンチョコを用意してみた。

1. 憲法条文には集団安全保障に関して記述なし

実際のところ、憲法の条文を読んでも、合憲か違憲かを判別するのは無理だ。今度の法案にある集団安全保障だが、平和・安全と言う国際秩序の維持のための軍事行動になるが、これに関して憲法九条には何も言及されていない。これだけ聞くと合憲に思えるが、政府が国会で積み重ねてきた憲法解釈から考えると違憲になる。それを知らないといけない。なお自国が攻撃された場合、他の国と連携して反撃する共同防衛は、個別的自衛権に入ると解釈される。

2. 政府は国会審議の中で集団安全保障は違憲としてきた

日本国憲法は、自国に対する武力攻撃は、必要最小限度の反撃を認めていると解釈されてきた。憲法十三条で保障される、生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利を守るためだ。しかし、他国に対して武力攻撃があっても、国民の生命、自由及び幸福追求に問題が生じるわけではない。遠い異国の紛争が、生活に大きな影響を与えることはほぼ無い。ゆえに政府は国会審議の中で集団安全保障は違憲としてきた。なお、1972年と1981年で解釈が変わったと言う指摘もあるが、辻褄は合うようになっており、継続性は認められる。

3. 補給、臨検、捜索救助活動は軍事行動

今回の法案のうち、国際平和支援法の方が集団安全保障になる内容を含んでいる*1。国連の軍事活動に対して、後方支援業務が出来るようになっているからだ。具体的には、補給(自衛隊に属する物品の提供)、臨検(民間船舶への積荷や目的地などの船舶検査活動)、捜索救助活動(遭難した戦闘参加者について、その捜索又は救助を行う活動)なのだが、これらは国際的には軍事行動になっている。

4. 法の安定性・予見可能性から解釈改憲は問題

日本も国際協力のひとつとして、集団安全保障に参画すべしと言う議論はあると思う。国連の決議が必要な軍事行動に、戦前の領土拡張主義が復活する恐れは無いであろう。しかし、日本国憲法の従来解釈は集団安全保障を許していない。法の安定性・予見可能性から考えると、過去50年の国会答弁で築き上げられた解釈を変更するのは、問題である*2。ゆえに、憲法改正が求められることになる。

5. 中国の対外拡張にはほとんど関係がない

集団安全保障は国連の軍事活動に関するものなので、国連の常任理事国である中国に対しては用いることは出来ない。国連の中国へのあらゆる制裁には拒否権が発動されるであろう。また、平和安全法制整備法の方も第七十六条二を読むと、ベトナムやフィリピンなどと相互防衛を行うことは不可能に思える。

*1平和安全法制整備法の第七十六条二は、個別的自衛権の従来解釈の範囲に収まるように思える。

*2大石(2007)「日本国憲法と集団的自衛権」ジュリスト, No.1343, 10月15日

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