2014年8月16日土曜日

外債発行について理解が深まる「日露戦争、資金調達の戦い」

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間違いなく戦史物なのだが、戦史物だからこそ、外債発行について理解が深まる本が「日露戦争、資金調達の戦い―高橋是清と欧米バンカーたち」だ。日露戦争で外貨(当時は正貨、金)は継戦能力、しいては勝敗を決定する鍵であった。日本は国際資本市場から資金調達を行ったわけだが、当時は途上国であって信用力が無く、容易にそれを成し遂げたわけではない。経済学の理論モデルではリスク評価や金融制約と言った無味乾燥な概念でまとめられてしまう部分だが、実際の資金調達ではそれをいかに判断するか政府や外国金融機関などの思惑が色々とあり、そういう部分が丹念に検討されている。戦況の変化が思惑にどう変化を与えたかなども語られており、興味深い。

1. 市場関係者が事実関係を整理

往々にして歴史書はそういうものだが、真実は闇の中である。外交文書や高橋是清、深井英五、金子堅太郎などの日記や口述などから事実関係を整理しているが、政治的立場のある人々は、必ずしも真実を語るわけではないからだ。信頼性の高い情報とつき合わせて、どの記録が真実か、虚偽があった場合はどのような意図があったのかを判断していく必要がある。著者の板谷氏は長らく証券業界にいて並の歴史家よりは実務に精通しているであろうから、関係者の思惑を拾っていくのに適任なのであろう。市場関係者から見て、不自然が無いように状況を整理していっている。

2. 借り手、貸し手、そしてリレーション

ただし、そうテクニカルな議論がされているわけではない。日本とロシアの国力、資金力、国内事情など借り手の事情、当時の金融市場の主要プレイヤーであるマーチャントバンクやインベストメントバンク、そして欧米一般投資家の貸し手の事情、そして借り手と貸し手がどうつながれるかのリレーションシップの三つが軸になって描写されていく。当時の日露や金融市場は現在とは大きく異なっているのだが、そこは平易に説明される。そして、高橋是清を中心とした関係者がいつどのような紹介で出会ってリレーションを形成していったのかが、説得力のある形で推測されていく。

3. 冷静な国際金融資本、無理解な国内メディア

リスク評価については勉強になる事が多い。日露戦争で日本側は連戦連勝にはなっていたが、当時の投資家はそれが両国の支払い能力にどう影響するか冷静に判断していた。日本は緒戦に勝利はしたが、資金不足で継戦能力に欠く状況は見透かされていたようだ。実際、日本公債の金利は、個別の戦闘での勝利では影響されない一方で、有力投資家のジェイコブ・シフが日本の戦時国債を購入した後や、ロシア側の継戦能力が疑われたときに大きく変動している。だから日本が戦争終結を優先し、賠償金を諦めたポーツマス条約も、投資家たちは高く評価したようだ。しかし、戦費が賄えないと言う事情を理解できていない日本のメディアや国民は、大いに不満を持った。國民新聞と言う例外があったとは言え、金勘定をする立場に立たないと、冷静なリスク評価は難しいようだ。

4. 興味深い逸話が多く紹介されている

高橋是清らが苦労して資金調達を行った話の他にも、日露戦争後の満洲経営において、排外主義的な傾向が強くなり、苦労して築いた欧米投資家とのリレーションシップが活用されなかったこと、日露戦争前に開戦を嫌がっていた日本の株式市場が開戦後は強気に転じたことなど、興味深い逸話が紹介されている。最後の日露戦争の教訓を現代日本へ適応しようとする部分は、大きな支払いリスクを背負う外債と自国通貨建ての内国債はやはり違うので無理があるように感じるが、資本市場のリレーションシップの形成を描き出している主要部分は活き活きと描写され、460ページと言う大著なのだが一気に読めた。

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