2014年6月28日土曜日

企業会計が不勉強な経済評論家

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経済評論家の池田信夫氏が『「内部留保」はなぜ増えるのか』と言う奇妙なエントリーを書いている。既に経理や会計に詳しい人が散々とバカにしているらしいのだが、企業会計の知識がないのか、用語の使い方からおかしい事になっている。理解していない用語で議論すれば、当然、その結論もおかしくなるわけで、問題エントリーもその例外ではない。

1. 会計用語の使い方がおかしい所

まずは会計上、意味不明な表現から。「余ったキャッシュフローを(非課税の)減価償却費として貯蓄する」と書いてあるのだが、減価償却費は損益計算書(P/L)に計上される経費で、貯蓄(=金融資産)は貸借対照表(B/S)に計上される資産だから、減価償却費は貯蓄にしようがないし、「余ったキャッシュ・フロー」はキャッシュ・フローが現金収支の黒字を指すことを思い出すとトートロジーになっていることが分かる。また貯蓄は借方の資産だが、内部留保は貸方の資本で、表題と本文のつながりが悪い。これではバカにされても仕方が無い。

2. 過大な減価償却引当金が、企業貯蓄を増やす?

言いたいことは、Financial Times誌のコラムにリンクが貼ってあるので漠然とは分かる。日本の法定耐用年数が実際の使用期間より短い傾向があるので、減価償却引当金が大きくなる。すると、税務会計上、投資が大きいほど利益が小さくなって法人税が減る。法人税が減るとキャッシュ・フローが増えるので、企業貯蓄と内部留保が増えるそうだ。「企業貯蓄奨励制度」と表現されている。しかし過大な減価償却引当金が、企業貯蓄を増やすと言うのは無理がある。

3. 投資を増やすので、金融資産は増やさない

池田信夫氏自身も「高度成長期に投資促進のために租税特別措置で減価償却を過大に認めた」と書いているわけだが、過大な減価償却引当金は投資を増やす傾向がある。投資をしないと減価償却費も増えないからだ。そして制度的に増えたキャッシュ・フローを再投資に回さないとしても、企業内部に金融資産として残す理由にはならない。金融資産として保持しても節税にはならないのだから、株主に配当したっていいからだ。つまり池田信夫氏が主張する「企業貯蓄奨励制度」と言うのは誤りになる。

4. 過剰投資の要因で、過少投資を説明するのは無理

池田信夫氏は、日本は過大な減価償却引当金で過剰投資と言う話と、近年よく指摘されている企業の手元資金の増加傾向(つまり、過少投資)を結び付けようとしているのだが、それに無理があることに気づかなかったようだ。「人口の減少する日本で投資が減るのはやむをえないが、余ったキャッシュフローのほとんどが非課税になるのはおかしい」とあるので、投資をしなくても減価償却されると思っていたのかも知れないが、どちらにしろ企業会計を勉強しましょうとしか言いようが無い。

5. アベノミクスの挫折を宣言するのも無理

本題には関係ないのだが、「4~6月期の小売業販売は大幅に落ち込み」とあるのだが、5月の小売販売額が報道されたのは6月27日で、6月の分をどうやって知ったのかが気になる所だ。なお5月の「小売業の販売額は11兆4340億円で、前年同月から0.4%減った」そうだが、「前回の消費税率引き上げ直後の1997年5月(1.4%減)と比較すると下落率は小さい」ので、『経産省は「前回の引き上げ時に比べ、反動減からの回復が早い」とみている』そうだ。5月の完全失業率は3.5%で、就業者数は57万人増、雇用者数は37万人増となっており、雇用情勢も良い。「アベノミクスの挫折がはっきりしてきた」と言うのは早計であろう。

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