2014年6月6日金曜日

ミクロ計量分析の常識が身につく『実証分析入門 データから「因果関係」を読み解く作法』

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各章のサブタイトルがアニメや時事ネタのパロディーになっていると話題の『実証分析入門 データから「因果関係」を読み解く作法』だが、法学セミナー連載「法律家のための実証分析入門」をまとめたもので、連載時の原稿が著者の森田果氏のページに微妙な形(dvi形式)で公開されていたので幾つかの章を拝読してみた。面白いし、ミクロ計量分析の常識が身につきそうで、分野外の人や学部生が読むと丁度よさそうな感じになっている。

常識と言うのは、専門用語と分析上の注意点のことだ。ミクロ計量分析をする人々は専門用語をそうではないように気軽に使うし、分析上の注意点も大雑把には共有している。この共有レベルが高いので、計量分析者の中には「クロスセクションではなくパネルでやってみたら・・・」「弱相関テストの結果・・・」「同時性が考えられるため・・・」のような事を、一般人にも容赦なく言うコミュニケーション障害者がよく稀に存在する。

同業者同士で話をするのであれば問題ないのだが、応用分野であれば分野の殻に篭ってばかりも要られない。特に政策分野ではデータ解析が一般化した時代では政策効果などの分析結果を、法律家などの計量分析者以外も理解したほうが建設的な議論が可能であろう。そういう意味では計量分析者のコミュニケーション能力を高めるべきなのであろうが、計量分析者がコミュ障でなくても広範な共有知をいちいち説明するのは一般に困難であったりもする。

結局、応用分野の人々には広くミクロ計量分析の常識を知っていただきたい状況なのではあるが、私の知る限りでは分野外の人向きの手軽な本は無かった。計量経済学の入門書だと、範囲が狭く良く使われる用語でも紹介されていない場合がある。逆に広範な分析手法を紹介している本は高度な専門書になりがちだし、そもそも英語で書かれている本が多い。本書は日本語で書かれていること、良く使われる用語や分析手法を広くカバーしていること、数学的な証明などは省いて分析手法の紹介に留めていることなどから、分野外の人やこれから大学院に進学する学部生の人が読むと良さそうな本になっている。

計量経済学はそれなり勉強したよと言う人でも、本書は読み直してみる価値はありそうだ。操作変数法(IV)などの幾つかの分析手法では具体例が紹介されていて面白く読めるし、普段使わない分析手法の概要を掴むのには悪く無いように思える。私はまずは「LATEと構造推定」のところを拝読し、期待していなかった方向に面白い話が書いてある事を発見した。第6章の決定係数のところからして、過去の高裁決定を批判していてかなり興味深い。 噂のサブタイトルの元ネタが何か考える以上に、楽しめるのは確か。むしろサブタイトルは魔法少女まどか☆マギカにバイアスかかりすぎだろうと思うので、著者の努力が足りない部分かも知れない。

紹介されている内容が広範なので、全部を読み込んで理解するのは大変だと思うし、ある程度は学部レベルの授業などで計量分析を習って演習をした人でないとやはりとっつきづらいかも知れない。法学セミナーの平均的な読者にはちょっと難しかったのではないかなと思う。それでも第10章ぐらいまで頑張って読んで、あとは辞書的に使っても有益であろうから、よほどのエキスパートで無ければ、鹿目まどかや暁美ほむらの挿絵が無いにしろ、買って損をしたと言う印象は受けないと思う。

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