2014年5月18日日曜日

政府が働きすぎを心配する必要は無い ─ そう、本当のホワイトカラーならね。

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ホワイトカラーエグゼンプションの話になると思うのだが、濱口氏が産業競争力会議の長谷川ペーパーのAタイプ(労働時間上限要件型)に関して、政府が労働時間の量的上限を決めないことを批判している*1。しかし労働時間の直接規制よりも、労働者の裁量権をどう維持するかの方が重要に思える。濱口氏の議論は、働き過ぎや過労死を直接防止する事に注意が行き過ぎなのでは無いであろうか*2。本当のホワイトカラー*3ならば、業務量を減らしてでも、死なない程度に労働時間を定めるはずだからだ。

1. 誰が業務量を決定するかで、妥当な制度は変わる

残業代に関わる議論の核心は、誰が業務量を決定するかであろう。経営者(や作業監督者)が業務量を決定するのであれば、従業員は労働時間の裁量権があったとしても、健康状態などに応じて調整することが出来ない。名ばかり管理職は過労死しうるし、実際にしている。逆に、経営者が業務量を決定できないとすると、業績連動給などが無いと、労働時間を定めても従業員がさぼり出す可能性がある。この場合は、従業員の働きすぎは心配するだけ無駄だ*4

2. 大半のケースでは経営者が業務量を決定する

業務量のコントロールは誰が出来るのか、どの程度できるのかが昨今の規制緩和の議論からは欠落しているように思える。そして、その議論をしたとしても結論が見えている。大半の職場では一人当たりの業務量は採用人数や受注量(や内容)の兼ね合いがあるので、会社の体制を見直さない限り、業務量はそのコントロールできない。忘れたりさぼったりして業務を減らしている人もいると思うが、ノー残業デーに備えて残業をしたりするのが実態であろう。

3. 経営者に業務量を減らす意欲を与えているのは残業代

今の日本で経営者に従業員の作業量を減らす意欲を与えているのは残業代で、これは全般的には効率的に思える。もし残業代が無ければ、同じ労働者になるべく残業してもらうほうが、単位労働コストが下がるので経営上は得になる。労働者が残業を好むようになると批判もあるが、教育コストなどを考えると残業代があっても同じ人員に仕事をさせたくなるので、割増賃金も妥当に思える。転職が摩擦無く行えず、経営側に交渉力があるケースが多い以上、残業代は重要だ。

4. 労働時間の絶対上限規制は硬直的で煩雑に思える

労働時間の絶対上限規制と言う別の解もある。しかし、経営者が完全に業務量を調整できるわけもなく、例えば4ヶ月平均で週48時間労働のような規定は、硬直的過ぎるように感じる*5。そして実行力に疑問が残る。違反した経営者を収監したりでもしない限り、従業員の作業量を減らす意欲を与えることはできないであろう。裁判や業務改善の履行の監視の手間隙を考えれば、残業代のようなゼニカネの問題にしてしまうほうが分かりやすい。労働者にとっても、絶対上限規制よりは残業代の方が、理解と主張がしやすい制度に思える*6

5. 実際に誰が労働時間を自己の裁量で管理できるのか?

経営者が従業員一人当たりの業務量を大雑把にコントロールしており、労使関係は経営側に交渉力がある事が前提で、残業代と言うゼニカネの制度はそれなりの合理性を有している。ホワイトカラーエグゼンプションの導入は、この二点の前提が満たされない労働者に絞るようにしないと、働きすぎの問題が出るであろう。長谷川ペーパーにも「労働時間を自己の裁量で管理することが困難な業務に従事する者は、対象とすることができないものとする」とはあるのだが、誰が管理できると言うのかを良く煮詰めないといけない。

6. 本当のホワイトカラーはどこにいるのか?

最終的には、本当のホワイトカラーはどこにいるのかと言う問題になると思う。年収で決定しようと言う動きもあるが、高年収でも業務量を自ら定めているとは言えないケースはあるし、大企業の終身雇用制度の中で年収が高くても転職先で同様の賃金を得られるケースは限られることに注意する必要がある。練習量を調整できるスポーツ選手などが思い浮かぶかも知れないが、彼らは自営業者だ。米国でも名ばかり管理職が問題になっている*7ことを考えると、もう経営陣、つまり役員ぐらいしかホワイトカラーと言えないのでは無いであろうか。しかし経営側と利害が一致している役員は、今でも残業代は無いはずだ。

政府が働きすぎを心配する必要は無い ─ そう、本当のホワイトカラーならね。で、本当のホワイトカラーはどこにいるんだい?

*1Aタイプ(労働時間上限要件型)に労働時間の上限がない件について

*2残業代ゼロ糾弾路線の復活?

*3後述するが、会社の他の部署の状況などと独立して業務量を自己決定できる従業員を本当のホワイトカラーとしている。

*42004年に60歳の米国マクドナルドのCEOが死亡している(CNN)ので、ナッジ政策は必要かも知れない。

*59時~21時勤務(休憩2時間)で週50時間勤務になるので、そもそも上限が厳しすぎるのだが、受託開発であれば四ヶ月ぐらい繁忙期が続き、その後は暇と言う事はありえるように思える。

*61998年以降の現在でも特別条項付36協定の(法定の)限度時間を超える労働期間は一年の半分までに制限されているのだが、ワタミや大庄の例に限らず実態として違法状態になっている職場は多いと思われる。なお「新技術、新商品等の研究開発の業務」は適用除外なので、プログラマは死ぬ寸前まで残業させられる模様。

*7関連記事:オバマ大統領「ホワイトカラー・エグゼンプションの条件を厳しくするわ」

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