2013年7月5日金曜日

汝、ランダム化比較試験を知ることなく現代科学を語ることなかれ

このエントリーをはてなブックマークに追加
Clip to Evernote
Pocket

これを知らずに現代科学は語れない、魔法のツール、ランダム化比較試験(RCT)を説明してみたい。

この世には様々なバイアスがあるのだが、疫学データには特に入り込みやすい。酒と健康の関係を考えよう。酒量が多い人と、酒量が少ない人を比較すると、前者が後者より健康だったりする。これで酒は健康にいいと結論づけていいのであろうか?

1. 逆向きの因果など、この世にバイアスは多い

もちろん駄目だ。不健康な人は酒を控えるから、酒量 → 健康と言う因果関係だけではなく、健康 → 酒量と言う因果関係も成立してしまう。これを同時性と言う。相関関係を見ることができても、因果関係を特定する事ができない。ではデータからは、因果関係は分からないのであろうか?

2. 未知の要因は理論的に分類やコントロールができない

そんな事はなくて、健康状態をコントロールできれば分かる。健康で酒を飲む人と、健康で酒を飲まない人を比較し、不健康で酒を飲む人と、不健康で酒を飲まない人を比較すればいい。しかし、このやり方には問題がある。体格や病気、遺伝的特性などなどの未知の要因も多い健康状態を計測しないといけない。厳密には無理。やはり因果関係は分からないのであろうか?

3. ランダム化比較試験(RCT)は、未知の要因をコントロールする

ランダム化比較試験(RCT)と言うのがあって、これを使えれば問題が解決する。RCTでは、なるべく色々な層から、多くの被験者を集める。そして、乱数を使って、トリートメント(T群)とコントロール(C群)に二分する*1。T群にもC群にも健康な人と、不健康な人が確率的に同じ数だけ含まれている。集団としてみれば、T群もC群の健康状態は同じだ。T群には酒を無理でも飲んでもらい、C群には禁酒をしてもらう。そして、T群とC群の状態を比較すればいい。

RCTの素晴らしい所は、酒と言う効果を観察したい要因以外は、全てブラックボックスの状態のままコントロールできるという事だ。被験者の健康状態を、科学者は知る必要が無い。十分な数の被験者を集めれば、確率的にT群もC群は同じになっているからだ。もちろんT群とC群の扱いをなるべく同じにする必要がある。さすがに酒では出来ないであろうが、薬の場合は偽薬を与えたり、二重盲検を行ったりもする。

4. 倫理的な問題や、実験室外の問題は解決できない

RCTにも欠点がある。一つは、人間が対象だと、健康被害が出る場合などに、倫理的に実験ができない。一つは実験室外ではT群とC群の環境をそろえることができないので、有効に機能しない。最大の問題は前者であろう。動物実験などではRCTが使われる事になるのだが、動物での効果しか分からないと言う事だ。

5. RCTで理屈抜きで因果関係を主張できる

何はともあれRCTは、様々な要因をブラックボックスのまま処理できるので、理屈抜きで因果関係を主張できるようになる。実施者がへまをやって、観測数が不十分であったり、T群とC群の分類がランダムになっていなかったり、T群とC群の扱いが ─ 例えばエサの鮮度や時間が ─ 異なったりするケースもあるから、追試はいる。しかし、これらの実験時に入る誤差やバイアスは、T群とC群を狙い撃ちにするものではない。実験だけで因果関係を示すことができるので、医学や生物では重宝されている。

6. 数ある分析手法の中でも、RCTの信頼性は傑出している

RCTを開発した統計学の教祖フィッシャーは、恣意性がRCT以外では排除しきれないので、コホート分析と言う長期追跡調査によって示された喫煙の弊害を認めなかった*2が、それぐらい他の統計手法とは信頼性に差があると考えられている。

何はともあれRCTは、医師薬生物系では基本中の基本。汝、ランダム化比較試験を知ることなく現代科学を語ることなかれ。

*1二分ではなくトリートメント群は何パターンかに分ける事も多い。

*2統計学を拓いた異才たち」を参照。

0 コメント:

コメントを投稿