2013年6月27日木曜日

LNTは理論/計量モデルでは無く防護モデル

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「擬似科学ニュース」とやり取りを続けているのだが、最大の見解の相違は、LNTが防護モデルなのか、理論/計量モデルなのかと言う所だと思われる。今日も「LNTモデルの意味」とそれに関して主張するエントリーが出ていた。

同ブログの主張は、電離放射線による遺伝子異常の発生確率が放射線量に比例するので、被曝量と発がん確率が線形関係にあると言うのが、理論的な根拠になると言うものだ。しかし、少なくともICRPは、そういう見解は示していない。

まずは議論が混乱しないように、(1)非線形モデル、(2)線形モデル、(3)閾値説を数式で整理してみたい。ERRが過剰相対リスクで、Dが被曝量、Tが閾値だ。αとβが係数になる。

1. 非線形モデル
ERR = α・D + β・D2
2. 線形モデル(LNT)
ERR = α・D
3. 閾値説
ERR = max(α(D - T), 0)

ICRPは防護モデルとしてLNTモデルを採用しているのは明らかなのだが、LNTモデルを非線形モデルに近づけるためにDDREFを導入している。

上図*1を良く見て欲しいのだが、点線の非線形モデルに近づけるために、実線のLNTモデルの一部領域をDDREFで割って、非線形モデルにLNTモデルを近づけている。

昔はICRPもDDREFを採用しておらず、純粋なLNTモデルだった。だから、ICRPは80年代後半から線形モデルに懐疑的になったと言える。閾値無しは維持しているので、メガマウス実験の結果を意識しているのでは無いであろうか。

上図は放射線量と、精原細胞*2の遺伝子異常を表す率を、線量率別にプロットしたものだ。同じ線量でも、異なる線量率(=線量/照射時間)であれば、突然変異率が異なる。線量と照射時間の両方を考える必要があるわけだが、LNTモデルでは照射時間が一定で、線量と線量率が比例していると仮定してしまう。また、リスク評価の元になる広島・長崎LSSデータは、照射時間が一定で線量率と線量が比例しているので、単純に線形回帰すると線量の影響を過剰評価するわけだ。

低線量における計量分析の結果が固まっていない*3ので、理論モデルは固まっていない*4。しかし、培養細胞と動物実験などからの知見から、リスクと被曝線量が非線形モデルに従うと思われているので、ICRPは計量モデルとして非線形モデルを採用したのであろう。

間違いだと断定する前に、ICRPが非線形モデルにLNTモデルを近づけるためにDDREFを採用した意味を考えるべきだと思う。理論的、統計的に線形モデルがもっともらしいのであれば、LNTモデルをDDREFで非線形モデルに近づける必要が無いからだ。ICRPのLNTモデルは不連続な直線で構成される歪なモノになっているのだが、199mSvと201mSvのリスクに2倍の差がある事にも注意して欲しい。

少なくともICRPのLNTモデルは防護モデルであって、それを科学的に有力な説だとは見なしていない。もちろん、ICRPを疑似科学団体だと批判することは自由だが。

補論:非線形モデルを近似してLNTモデルになるか?

言いたいことはわからないでもないが、非線形モデルの近似としてLNTモデルは正しいと言う主張も見かけるのだが、数学的には微妙だ。

非線形モデルf(D)をテイラー展開すると、任意の定数aを置いて、ERR = f(a) + f'(D - a) + O(D - a)となり、O(D - a)を十分小さいと無視してERR = f(a) + f'(D - a)となる。つまり、ERR = f(a) + α + 2β・(D - a)になるのだが、f(a) + α - 2βa = 0のときしかLNTモデルにならない。

あくまで計算上の議論だが、非線形モデルの近似と考えると、LNTモデルのようになる可能性も、閾値説のようになる可能性もある。

追記(2013/06/27 23:05):「疑似科学ニュース」が、ICRPが非線形モデルERR = α・D + β・D2を推定した上で、それと整合的な歪な形のLNTモデルを採用していることを、理解してくれていればと思いつつ、コメントが来たので追記。

DDREFというのは、まだ(2)の段階で、(3)まで行ってない。論理モデルを作れていない。そもそもこの手の研究は随分まえから行われているけれど、(2)の段階から進展がないんだよね。

この見解なのにICRPが厳密なLNT仮説を捨てて、非線形モデルを前提としたDDREFを採用した事には異議は無いのであろうか?

なお、ICRPが採用している非線形モデル/不連続なLNTモデルは、(3)の段階(論理モデルの作成)に達していないと言うのは問題があって、DNA修復機能の存在が理屈をつける事ができる。ただし、DNA修復機能が一定時間で一定の修復能力しか無いと示されたのは2011年12月の事なので、ICRPがモデルを採用した1980年代後半には、詳細は闇の中だった。

どちらにしろ疑似科学ニュースの論点から言えば、ICRPはは最も有力なLNT仮説を捨てて、あやふやな理屈を根拠にDDREFを採用した事になる。

彼自身も俺が「なぜそこまでLNT説を否定する必要があるのだ」と問うたら、社会的な話を始めた。

実用上、加法性があるので計算が容易で利便性があると言うのは、社会的(政治的?)な問題なのであろうか・・・と思ったら、安全バイアスをかけるの方の事だと思い出した。低線量だと、非線形、線形(LNT)、閾値ありで最も厳しくなるのがLNTモデルなので、安全第一の防護基準としては・・・と言う議論。科学的に疑義があっても、防護基準としては基本的に問題ない。だから以下の部分では、見解が一致する。

ICRPの文書にどう書いてあるかとか、些細な問題だと思うよ?

もちろんICRPがどう思っているかは科学的には重要ではない。結局、ICRPは放射線防護基準を決める機関なのであるから、厳密な科学的根拠を示す機関ではないからだ。

しかし、以前の疑似科学ニュースはこう主張している

一番の問題は非線形モデルがまだ確立されていないから。LNTモデルよりも精度が高く、LNTモデルと同程度の完成度を持つモデルができているなら、そちらを採用すると思うよ。

ICRPは非線形モデルERR = α・D + β・D2を推定した上で、それと整合的な歪な形のLNTモデルを採用している。

疑似科学ニュースの以前の論点から言えば、既に採用されているこの非線形モデルは「LNTモデルよりも精度が高く、LNTモデルと同程度の完成度を持つモデル」にならないのであろうか?

もちろん例えICRPが支持していなくても、疑似科学ニュースが、LNT仮説が最も有力だと主張する自由はある。ただし、学術的には議論がかなりあるようだ。

追記(2013/06/28 10:04):コメントが帰ってきたのだが、数理・計量モデルに不慣れな面もあるようなので、幾つか質問してみたい。

| この見解なのにICRPが厳密なLNT仮説を捨てて、非線形モデルを前提としたDDREFを採用した事には異議は無いのであろうか?
捨ててないと思うけど。

上述しているが、ICRPが厳密なLNTモデルを捨てていないとすると、LNTモデルは一直線になり、現在のLNTモデルのように不連続な線にならない。

ICRPはリスク推定は非線形モデル、防護基準は二本の不連続な線形モデルになっているのだが、これは厳密なLNTモデルと言えるか?

繰り返しになるが理論モデルの完成度がLNTモデルに比べて非線形モデルは低いから、科学的に妥当なLNT説を採用しつつ、現実問題の対処においては、いまいち信憑性が低いけれど、非線形モデルも使いましょうよ、ということだろう。そういう解釈でどんな矛盾があるのか。わざわざ矛盾の生じるようなうがった解釈をするのはいただけない。

この議論には三つ見落としがある。特に線量率効果を推定しなくていいのであろうか?

  1. 線形モデルでは線量率効果を入れる事ができないので、非線形モデルに対して科学的な信頼性を高めることができない。
  2. 計量分析の上では、非線形モデルは線形モデルを内包する。β=0になれば、線形と非線形も同じになる。
  3. 「科学的に妥当なLNT説」「現実問題の対処においては・・・非線形モデルも使いましょうよ」とあるが、実際は逆になっている。科学的に厳密にすべきリスク推定は非線形モデルで、現実に対処する防護モデルが不連続なLNTモデルになっている。
完成度の点だけみても、非線形モデルは論理モデルが構築されていない。

線量効果と線量率効果の両方を考慮する非線形モデルは、線量効果だけを考慮するモデルよりも、非論理的で完成度が低いと言えるのであろうか?

ERR = α・D + β・D2の推定は、ERR = α・Dの推定が正しいときでもβ=0になってあてはまる事に注意されたい。つまり数学的には非線形モデルを推定した後に、線形モデルに手直しをする必要は全く無いのだが、それを考慮されているであろうか?

追記(2013/06/28 10:45):他の部分にもコメントを返す。

惑星の軌道半径を予測するモデルだ。それなりの精度で現実と一致するけれど、一致する理由がわからなかった。つまり論理モデルの構築ができない単なる表面的な近似式だった。

古典物理学でも慣性の法則、運動方程式、作用・反作用の法則、そして重力の存在は、単なる経験則をまとめたものにしか過ぎない。これらは「論理モデルの構築ができない単なる表面的な近似式」なのであろうか?

ついでにマウスの実験の話。まずこの実験は発癌率ではないことに注意しなければならない。ここでいう突然変異というのは子供のマウスに遺伝的異常がどの程度現れるかを示す。

DNA異常の発生率が被曝量に比例するから、発癌率も被曝量に比例すると言う議論を擬似科学ニュースではしていたはずなので、DNA異常の発生率を見る実験が妥当では無いであろうか?

そして浴びせる線量率が桁違いな点も注意が必要。990mGy/minと0.09mGy/minでは1万倍違う。これはもはや急性障害ではなかろうか。

ここでの定義では、定義上の問題だが、急性障害ではない。障害によって閾値のありなしがあるのが、経験的なものではあるが。

990mGy/minという桁違いの量でなければ、差がでないというのは、むしろ線量率に左右されないということを示しているともいえる。

ところがICRPは、これら80年代後半から動物実験の知見を反映して、線量率効果係数(DDREF)を導入している。

なお、ICRPが参照していない実験では、古瀬らの研究がある。これは線量0.125Gyからの分析で、そこで推定された線量率効果係数は2.1~3.3と推定されており、低線量域の方が係数が大きい。線量3Gyで、線量率882mGy/minで白血病発生率16.72%、95.8mGy/minで8.71%、0.298mGy/minで4.44%、0.067mGy/minで6.81%、0.016mGy/minで3.16%。ただし、0.298mGy/min以下では線量1~5Gyと白血病発生率に相関は無い模様だ。

疑似科学ニュースが、ICRPも認めるDNA修復機能で説明される線量率効果を非論理的と断定する理由は何であろうか?

追記(2013/06/28 18:01):LNT仮説が「有力な説」と言う主張は、疫学データや動物実験データからは有力と言えず、最近の分子生物学の知見からは有力と言えず、国際機関等の採用推定モデルからも有力とは言えず、各種の科学者団体の批判からも有力と言えず、さらに公害問題では病理学的説明は重視されていないと思いつつ返事をしてみたい。

科学的な正当性のあるモデルは一直線のモデル。しかし誤差が大きい。非線形なモデルはデータには合う(ような気がするが)、科学的な正当性がない。

非線形モデルと線形モデルを比較して、

  1. 非線形モデルは線量と線量率、線形モデルは線量を評価できる
  2. 非線形モデルの方が当てはまりが良く、線形モデルは当てはまりが悪い
  3. 非線形モデルはDNA修復を根拠として持つ

と言う状況だが、非線形モデルが科学的では無いと言えるのか?

生体内部のDNA修復を理由とする線量率効果は外部的なノイズと言えるか?

また、自由落下運動や慣性の法則は、空気抵抗と言う説明できない効果があるにしろ、アリストテレスの説よりも計量的に説明力があった。同様に統計的に支持される方を科学的だとすべきではないか?

だから線量率効果を科学的に推定するモデルが確立できていないのだから、それを科学の範囲に入れることはできないということ。

ICRPとBEIRなどが利用する線量率効果の推定モデルの関数形は同一に見えるが、線量率効果を考慮した推定モデルは確立されたと言えないのか?

DNA修復をICRPが認めているというのはどの文書?ICRPが線量率効果が論理的と言ってるのはどの部分?

DNA修復で説明される線量率効果を反映するために、非線形モデルを導入してDDREFを計算しているICRPは、線量率効果を認めていないのか?

あなたの話だとICRPは大人の事情でいろいろ判断するんだよね。

放射線防護モデルではICRPはオトナの事情で判断しているという話で、科学的放射線リスクはオトナの事情で判断しているとは指摘していない。

| 古典物理学でも慣性の法則、運動方程式、作用・反作用の法則、そして重力の存在は、単なる経験則をまとめたものにしか過ぎない。
それらは経験則からモデルをきちんと作っている。

線量率効果も動物実験の効果で確認されており、経験則で示されているのだから、推定モデルに反映されているのでは無いのか?

「論理的にもっともらしい」アリストテレスは偏見の塊で、ガリレオが実験データに基づき慣性の法則を見出し、その後の科学的方法論の方向性を定めた事に習い、データに基づきモデル選択をしていくのが妥当では無いであろうか。つまり線量率効果と言う知見を反映していくのが科学的姿勢であって、論理的に思えないと排除するのはアリストテレス信者的な発想では無いであろうか?

*1講義資料 - 放射線遺伝学教室』から転載。

*2生まれてくる子マウスの異常ではないことに注意されたい。人間が特にそうだが、染色体異常があると、流産するケースが多くなる。

*3メガマウス実験のグラフもガンマ線だから目盛が860mSv相当から始まるので、低線量域の実験結果ではない。

*4現実の説明力でモデルの取捨選択が行われるわけで、科学的には計量分析の知見が先行する事になる(関連記事:疑似科学を統計学的に否定すべき理由)。

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