2013年6月23日日曜日

ICRPのLNT仮説への懐疑は、DDREFの採用から分かる

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疑似科学ニュースが、「ICRPはLNT仮説を科学的に信じていない」と言う主張の理由を問いただしている。ICRP自身が疫学的リスク計算を戒めていると言うだけでは、陰謀論に思えて納得できないようだ。何はともあれICRPのLNTモデルの作り方を見てみると、実用的な補正が施されていることが分かると思う。

ICRPは、広島・長崎LSSと言う原爆被害者のデータから、被曝線量とリスクの関係を整理している。ただし全データから直線を引くのではなく、100mSvから1500mSvのデータに制限している*1。何はともあれ、高線量域のLNTモデルがデータから作られる。

100mSv未満の明確な疫学データは無いので、この高線量LNTモデルを、低線量域まで延長して外挿する。この延長にはDDREFと言う修正係数を用いて、低線量域では影響が少なくなるようにしている。図を描くと以下のような感じだ。

このような調整を行った理由は、培養細胞と動物実験、臨床データからの知見から、リスクと被曝線量が非線形モデルに従うと思われている*2ので、高線量LNTモデルを低線量で使うとリスクを過剰に見積もる事になるからだ。

非線形モデルの方を利用しろと思われるであろうが、非線形モデルを採用すると、被曝量の足し算が出来ないので運用が困難になる。被曝量と被曝日時を細かに記録する必要が出てくるからだ。被曝量を一定以下に抑える防護目的では、LNTモデルとALARAは運用性に優れている。こうして、善意に満ちたモノではあるが、オトナの方便が完成するわけだ。

なお、DDREFで修正されたリスク評価なら疫学的予測にも正確なのでは無いかと思うかも知れないが、DDREFが2である事が適切な理由なども明確では無いし、どちらにしろ統計学的な裏づけの無い予測値しか出てこない。

追記(2013/06/24 01:30):返信が来たのだが、非線形モデルがモデル化されていないと主張されている。

でも「なんとなく思う」だけではダメで、モデル化しなければならない。

ICRPは非線形モデル(EER=α・D + β・D2; ERR:過剰相対リスク,D:被曝線量,α、β:係数)を考えていて、非線形モデルの計算が真のリスクに近いと見ているから、その近似のLNPモデルにDDREFを採用しているわけだ。図では点線を実線が近似していることに注意して欲しい。

一番の問題は非線形モデルがまだ確立されていないから。LNTモデルよりも精度が高く、LNTモデルと同程度の完成度を持つモデルができているなら、そちらを採用すると思うよ。

ICRPは非線形モデルを設定した上で、DDREFと言う苦しい係数を使って、それを線形化していることに注意して欲しい。科学的には非線形モデル、防護目的ではLNTモデルを採用しているわけだ。

*11500mSv以上のデータは後述する非線形モデルの適合度を悪くするので除外しているらしい(岡(2011))。

*2閾値ありモデルも主張されているが、ICRPは閾値については明確に採用していない。

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