2013年2月24日日曜日

ブラック企業が儲かる理由を初等経済学で説明する

このエントリーをはてなブックマークに追加
Clip to Evernote
Pocket

労働問題が御専門の濱口氏が、退職や解雇が不法企業を淘汰すると言うのはおとぎばなしだと言っている*1

ブラック企業が淘汰されると言う人は経済学の初等教科書脳の実例で、労働の世界でブラックという評判が立てば立つほど、財・サービス市場で良い企業だと褒め称えられ、業績がどんどん上がっていっている例がいっぱいあるそうだ。

しかし入門レベルの経済学で考えても*2、労働法を守らないブラック企業の方が儲かるのでは無いであろうか。

1. 「不当解雇」は企業利潤を拡大する

上の図は、労働投入量に完全に比例した生産物の需給グラフだ。S-Sが供給曲線、D1-D1が当初の需要曲線となる。均衡点はE1となる。労働投入量はL1だ。

何らかの原因で需要減少し、需要曲線がD2-D2に、均衡点はE2移動したとする。初歩的なミクロ経済学では、労働投入量はL2に減少する。しかし、この雇用減少が不当解雇になりかねない。

現行法規で整理解雇が可能なのは、生産者余剰P2-E2-Bが、労働者の不利益E1-L1-L2-E2よりも小さい事が条件になる。黒字のままでは整理解雇はできない。経済状況が悪化すると、利潤最大化ができないわけだ。

ブラック企業は違法に雇用調整を迅速にできるため、生産者余剰を最大にできる。解雇をチラつかせて部下に性的関係を迫る上司もいたりするし*3、不当解雇の実態はこのような綺麗事では無いわけだが、経済学101的にもブラック企業が強い理由は説明可能だ。

2. 風評がブラック企業を淘汰するか?

不当解雇を行うブラック企業の風評は悪くなるので、ブラック企業は非ブラックよりも高い賃金を払わないと人材が集まらなくなるので駆逐されると言う主張もある。しかし、この主張は二つの理由で成り立たない。

まず、情報の非対称性があるので、ブラック企業か否かがわからない事が多い。大手居酒屋チェーンが問題になったが、同業他社がどうなのか分かる人は多くは無いであろう。次に、ブラック企業は相対的に高い賃金を払う余裕があるので、完全情報でも人材募集は可能だ。

実際には、悪評が立つ前に高利益率のブラック企業が、まともな企業をなぎ倒す事は十分に考えられる。悪評が立った頃には、業界で支配的な地位を占めて、標準になっているわけだ。なお、労働集約的で、かつ技能蓄積が少なくて済む業界は、ブラック企業が有利と言う事になる。

3. 「不当解雇」が世の中を良くするとは限らない

上述のごく簡単な話では、実は「不当解雇」が世の中を良くする事になる。需要縮小時に、迅速に雇用量を調整できず利益が得られないのであれば、最初から投資や雇用が抑制されてしまう。経団連などが主張している話はこれ。しかし、「不当解雇」が世の中を良くするとは限らない。

従業員が職場に適応したスキルを身に付ける方が、生産性があがるケースを考えよう。しかし、職場固有のスキルを身に付けると職場にロックインされるので、不当解雇されてしまうと路頭に迷う。会社側に対して交渉力が弱くなるわけだ(ホールドアップ問題)。解雇自由だとロックイン効果を避ける傾向が出て、社会全体の生産性が低下する可能性がある*4

解雇自由化を主張している某経済評論家が、一時、政治問題でホールドアップ問題をやたらに強調していたのを思い出すが、本来はこういう問題で使うはず。書籍や資料を読み込んでいるようにも思えないし、技能に投資すると言う発想が無いのかも知れないが、不完備契約の問題を無視するわけにはいかない。

*1実際には離職者が多く問題になり待遇改善に迫られる企業もあるし、大量に離職者が出て経営が傾くケースもある。例えば1968年にフェアチャイルドセミコンダクター社の経営に反発した技術者が、現在の半導体最大手インテルを設立した。ただし待遇の問題であり、不法行為があったと言うわけではない。

*2労働経済学に基づく議論は「労働者保護の必要性と手段」を参照。

*3ブラック企業?ブラック管理職では無くて?」と言う事が多々おきている。濱口氏の「日本の雇用終了」を参照。

*4ただし「脱格差社会と雇用法制」に収録された常木氏の論文「不完備契約理論に基づく解雇規制法理正当化の問題点」では、現行法規が不完備契約の解消に役立っていると言う主張を否定している。

0 コメント:

コメントを投稿