2011年9月30日金曜日

児玉龍彦教授の主張に、放射線医学総合研究所が苦情を述べる

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話題になっていた東大アイソトープ総合センター長の児玉龍彦教授の衆議院厚生労働委員会での証言だが、放射線医学総合研究所が「尿中セシウムによる膀胱がんの発生について」を公表し、その内容について問題点を指摘し、「チェルノブイリ事故では小児甲状腺癌以外の放射線被ばくによる健康影響のエビデンスはないと結論付けられており、これが現在の世界的なコンセンサス」だと確認している。市民団体などでは放射能物質の危険性を示す証言として捉えていたので、福島第一原発の災害・事故による周辺汚染の議論に一石を投じるかも知れない。

1. 児玉教授の国会証言による主張

児玉龍彦教授の主張は多岐に渡るのだが、あえて整理すると次のようになる。(1)広範囲に放射能汚染が発生しており総量も多く今後も残存する。(2)放射能による内部被曝の危険性は後日に立証される事があるため安全とは言えない。(3)放射性物質の拡散地域は複雑なので、現在の避難区間の設定は不適切であり、計測機器で詳細な調査が必要。(4)除染活動のため予算的・法的支援や民間活用が必要。全体としては、異論がある人は少ないと思う。

問題は、(2)に関連して列挙された「チェルノブイリ膀胱炎」に関する研究の解釈だ。児玉教授の国会証言の該当部分を抜き出そう。

福島先生がウクライナの医師と協力して、前立腺肥大手術のときに500例以上の膀胱サンプルを検査したところ、高濃度汚染地区では、尿中に6ベクレル/リットルという微量のセシウムが検出された。この地域ではP53遺伝子の変異が非常に増えていて、しかも、増殖性の前癌状態(ある組織に癌ができる前に、癌に先立って介在する病変)が起きている。これによって増殖性の膀胱炎が起き、かなりの率で上皮内の癌もできているということが報告されている。

2. p53遺伝子変異頻度が増えている?減っている?

ひとつ明快な間違いがあって、「P53遺伝子の変異が非常に増えていて」と言う部分はおかしい。福島氏の当該研究要旨には『原発事故後に認められた膀胱癌が事故前に同地域で得られた膀胱癌と比べp53遺伝子変異頻度が有意に【低く】』とある。発がん抑制遺伝子であるp53遺伝子変異頻度が半減しているのに、膀胱がんが増えていると主張しているのが興味深い点なのだが、ここは細部のミスとして看過しよう。

3. 児玉教授は疫学的調査結果を信頼していないが・・・

児玉教授は、X線造影剤トロトラストによる放射線の晩発障害の事例を理由に、疫学的調査結果を信頼していない。これは体内に蓄積され、数十年経過後にがんを誘発する事が近年知られる事になった(ATOMICA)。ところがトロトラストは体内に蓄積されるが、セシウムは100から200日で排泄される。そもそも薬剤として投入されるものと、環境中に存在するものの摂取経路は大きく異なるわけで、危険性を示す事例として妥当なのかは疑問がある。

4.「チェルノブイリ膀胱炎」は疫学的に検証されていない

「チェルノブイリ膀胱炎」の最大の問題は、あくまで仮説に過ぎず、疫学的な見地で検証されたものではないことだ。放射線医学総合研究所は、「良性前立腺肥大前立腺肥大手術を受けた住民と対象が限られていること、膀胱炎ならびにがん発生リスクを解析する上で必要なライフスタイル等の情報がないに等しい(喫煙歴のみで、汚染地域と非汚染地域に喫煙歴の差はなかった記載)こと」を指摘し、批判している。

5. 疫学的な実証研究は極めて重要

疫学的な実証研究は重要だ。「チェルノブイリ事故後の1986年~2001年の間にウクライナにおける膀胱がんの発生率が、百万人あたり26.2人から43.3人に増加したという報告」があるのだが、平均年齢が増加していても、喫煙者が増加していても、その他の健康状態が悪化していても、そして確率的な誤差であっても、この程度の差は出る事がある。これらの要因をコントロールしないと、危険性の有無は分からない。特にウクライナは喫煙率が高く、2008年まで生産量が増加していた。膀胱がんの確立されたリスク要因は喫煙であり、男性の50%以上、女性の約30%の膀胱がんは、喫煙のために発生するとの試算がある(国立がん情報サービス)。

6. 未知の危険性にも程度がある

児玉教授が指摘したかったのは、未知の危険性があるので、可能な限り除染を行うべきだと言う事だ。未知の危険性だけに、過去事例などを使って説明などはできない。立証できれば未知の危険性では無いわけだ。

ただし、未知の危険性にも程度がある。小児甲状腺癌の危険性が疫学的に立証されたのは、1987年のチェルノブイリ事故のしばらく後だが、ベラルーシ共和国は1990年保健省の管轄下に国立甲状腺がんセンターを設立している。政府機関が出来るぐらいだから、みんな「やばい!」と思えるぐらいの増加があったわけだ。長崎大学原爆後障害医療研究施設のウェブページからグラフを転載するが、ベラルーシでは何十倍にも増加している。大半が子供で、喫煙などの影響も無い。比較するデータが無いので疫学的に危険とは検定しづらいわけだが、データが揃ったら検定できると思っていたのは想像に難しくない。

未知の危険性にも程度があって、小児甲状腺癌と「チェルノブイリ膀胱炎」は大きく危険性が異なるわけだ。児玉教授は危険性を喚起する立場なので同じように説明しているが、それを聞く方は冷静に違いを認識する必要がある。

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