2011年1月16日日曜日

著名テクノロジ・ジャーナリストがiPhoneの勝利を予言

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著名なテクノロジ・ジャーナリストのSteve Gillmor氏がTechCrunchに書いたエッセイの意味が分からないと話題になっている。技術や経営の話なのに情緒的に書かれており、しかも事実誤認も多いので、話が理解できるものでは無くなっているのだ。日本語版の訳者も苦労したことだろう。

1. Verizon版iPhoneは、GoogleとMicrosoftのAppleへの敗北を意味する?

問題のエッセイでは、Appleが通信キャリアを絞ってiPhoneを供給していたために、Appleと競合を避ける事ができたGoogleとMicrosoftに、Verizon版iPhoneの発売が次のように大きな影響を与えたと主張している。

iPhoneの模倣物であるAndroidの普及促進をし、模倣物とiPhoneの見分けがつかない消費者に対して成功を収めたGoogleは、普及している動画形式H.264をChromeから排除することでHTML5の促進を妨害し、iPhoneに対するAndroidの優位点であるFlashの価値を高めようとした。全ての通信キャリアでiPhoneが発売されれば、模倣物のAndroidは市場を失うからだ。

Microsoftは、Silverlightでクラウド化を推し進め、MS-Officeの次のMicrosoftのテクノロジを開発してきたBob Mugliaを辞めさせざるをえなくなった。iPhoneとiPadの普及の加速が、Windows PhoneとWinowsタブレットの脅威になるためだ。全ての通信キャリアでiPhone/iPadが発売されれば、Microsoftが市場に割り込む余地が無くなる。

しかしながら、両者の行動は裏目に出て、Googleの政治的な姿勢はその評判を落とし、Microsoftの人事問題はそのテクノロジ開発能力を落とすことになる。つまり、iPhoneを排除してきたVerizonがスマートフォン市場で生き残るためにiPhoneの出荷を踏み切ったのは、Verizonだけではなく、GoogleとMicrosoftのAppleへの敗北ももたらす事になる。

一方でAppleは、FaceTime、AirPlay、AppStore、Twitterアプリなどで、ソーシャル・ハブの革新の担うようになり、通信キャリアとの関係で搭載できなかったメッセンジャーやIP電話などの機能をAndroidの後追いで搭載できるようになり、機能が充実する。結局はAppleの一人勝ちになり、iOS端末がスマートフォン市場とタブレット市場の大多数を占めるようになる。

2. Steve Gillmor氏のエッセイが妄想である点

Gillmor氏のエッセイには、事実誤認に感じる点も多く、また個別の単語の意味を把握していないような記述も多い。ざっと見た限りでも、以下の点が指摘できる。

  1. 通信キャリアのシェアの差はあるが、Androidが売上を大きく伸ばしている。販売シェアでiOSの1.5倍になっており、Verizon版iPhoneの欠如だけが、Androidのシェア拡大の理由とは言い難い。
  2. スマートフォンの市場シェアでVerizonの不調が主張され、VerizonがAppleに敗北したと述べられているが、iOSの市場シェアの伸び悩みには述べられていない。VerizonはAT&Tにまだリードを保っているが、iOSはAndroidに市場シェア、契約者シェアで既に逆転されている
  3. AndroidはiPhoneの単なる真似では無い。ホームスクリーンのウィジェット、ライブ壁紙、通知機能、マルチタスク、アプリ間の連携機能、USBストレージ機能、ハードウェアのバリエーションなどの、利用者から見ても明確な優位点が多数ある
  4. AndroidとiPhoneに差がないと思う消費者なら、Verizon版iPhoneが出てもAndroid端末と差が無いと思うのでは無いであろうか。模倣物であっても訴求力に差ないなら、Appleに絶対有利とも言えない。
  5. 動画再生はアプリでも行われるため、スマートフォンにおけるFlashの優位点ではない。むしろ、動画再生以外が問題になる。Flashを前提としたPCサイトは、まだまだ多い。
  6. MNPが可能でも、回線状況の差によりVerizonからAT&Tに携帯電話会社を変更する消費者が少なかった事が前提となっている。これらの消費者が、アンテナに問題の抱えるとされるiPhone 4に飛びつくものだろうか?
  7. Silverlightとクラウド、クラウドとスマートフォンの関係が不明瞭。Silverlightは元々はFlash対抗製品で、クラウドはウェブ・アプリケーションや、広域分散データベースの事を指す。MSのスマートフォンでは両者を使う事になるだろうが、iPhone/iPadと直接競合はしない。
  8. VerizonとAppleがスマートフォンに関して契約した事が、Microsoftのモバイル部門ではなくエンタープライズ部門のトップが辞めないといけない理由が不明瞭。エンタープライズ部門の業績は好調だ。
  9. Windows Phone 7は、Androidよりも、BlackBerryよりも人気が無い。そもそもVerizon版iPhone以前の段階で問題を抱えているように見える。
  10. ソーシャル・ネットワークの普及が、Apple iOSだけに有利な点になるのか不明瞭。Twitter、Skype、Facebookなどの人気のサービスは、AndroidやWindows Phoneでも利用することができる。

要するに多少は技術的に詳しい人が見れば、理解不能としか言いようが無い文章だ。他にも、T型フォードは色も選べなかった事をGillmor氏が知らないようなのも気になるが、本題とは外れるのでリストしなかった。

3. 根底にあるiPhoneとiPadが優れているという仮定

文中では明確にされていないが、Gillmor氏はApple iOSが消費者への訴求力の点で優れていると考えているようだ。iPhoneやiPadなどのiOS端末が圧倒的に訴求力があれば、GoogleもMicrosoftも慌てるだろうし、シェアもiOS端末が圧倒的になる。

しかし、その根拠は明確ではない。逆にH.264排除によるGoogleの信用低下や、Microsoftのエンタープライズ部門のトップの辞任など、ほとんどスマートフォンに関係の無い問題を議論している。

つまり、Gillmor氏のエッセイには主張を裏付ける根拠が何も無い。例え本当にiOS端末が優れているとしても、根拠が無いエッセイは妄想だ。

4. 個別製品としてはiOS端末が強いのは事実

本人が理由を明確にしていないので、Gillmor氏がiPhoneとiPadが優れていると主張する根拠は分からないが、個別製品としてはAppleが圧倒的に強く、プラットフォーム全体で見るとAndroidの普及が進んでいる状態が、その理由ではないかと思われる。個別製品としてiPhoneは魅力的なので、VerizonでiPhoneが販売されれば、ある程度の販売数が見込まれるだろう。

Millennial Mediaの調査によれば、インターネット・トラフィック・ベースで利用されている携帯端末のうち20.96%がiPhone、iPad、iPod TouchのiOS端末だ。それぞれ12.45%、2.04%、6.47%のシェアがある。Androidも、ほぼ同じシェアがあるが、Nexus Oneが4.14%、Motorola Droidが2.84%、HTC Heroが2.15%、HTC Evoが1.68%、Motorola Droid2が1.61%と続き、特定の端末でiPhoneほど売れているものはない。製品シリーズとしてはiOS端末の強さが際立っている。

5. 状況は変化しており、今後もiOS端末が強いとは限らない

しかし、Android端末の普及と発展によって、iOS端末の相対的な競争力が落ちている事実もある。アプリの質や量は普及台数に比例するもので、アプリはiPhoneと言い切れない状況が発生しつつあるし、ハードウェア・キーボードのようなバリエーションはiOS端末には欠ける。そしてiPhoneの熱烈なファンのギークは、既にAT&Tの回線を使っているはずだ。彼らがAT&TからVerizonに移行する事があっても、Verizonに大勢のギークが残っているとは限らない。

最終的には、iOSとAndroidのプラットフォーム競争は、それぞれのプラットフォームの利点と欠点で決定される。ところがGillmor氏のように、iOSが有利と見る人は、機能的な優劣比較を議論するのを避ける傾向がある。それではiPhoneが気に入っているだけで、Android端末を試したことが無く、比較する事ができないと疑いたくなる。テクノロジ・ジャーナリストを名乗っているのだから、もっと詳細な調査と比較の上で、未来を予測するべきだと思うのは、私だけではないはずだ。

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