2010年7月4日日曜日

第三の道の正体、菅内閣の経済政策

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菅直人首相は就任演説で、第三の道による強い経済、強い財政、強い社会保障を主張した。この総花的な第三の道が何であるかについては、メディアなどでも混乱が見られ、疑心暗鬼になっているようだ。しかしながら、菅内閣の経済政策のブレインが大阪大学の小野善康教授(右の写真)であることから、世間で思われているよりは、Bloombergのインタビューなどで、第三の道が現実的なプランであることが分かって来た。第三の道は、中道路線ではなく、もっと具体的な所得再配分の促進政策だ。その特徴と、問題点を整理してみよう。

1. 現在の日本のマクロ経済政策の課題

現状の日本経済の問題点は、貯蓄が大きく、内需が少ない点に尽きることは、ほぼ一致した見解だ。政府ができる内需拡大策の代表例は、拡張的な財政政策、つまり政府赤字による積極的な公共投資であるが、最近はその効果が低下してきていると言われている。また小渕内閣・麻生内閣などの自民党政権下で拡張的な財政政策を積極的に行ってきた結果、財政赤字の拡大ペースは大きくなっており、将来的な財政破綻も心配されている。

2. 財政赤字の拡大を防ぎつつ、内需を拡大することができないのか?

この難易度の高い問題に対して、所得配分から解決を考えるのが第三の道である。つまり、欲しくてもモノが買えない貧乏人は、十分な資産がある金持ちよりも消費に熱心だ。そこで、金持ちから税金でお金を取り立てて、何らかの方法で(例えば失業中の)貧乏人に支給すれば、世の中全体の消費は増えるであろう。しかも、政府は増税と配分を同時に行うだけなので、財政赤字は増加しない。内需が拡大すれば、民間投資は増加するし、経常収支の黒字は縮小する。結果として、円安傾向になり、輸出企業も潤うのだ。

なお、人手を使う労働集約的なサービス業などに政府が支出し雇用創出することで、失業者を吸収して所得を配分するそうだ。これらの産業は生産効率性は悪いが、そもそも他の分野で過剰に生産力があるために失業者が発生しているので、国全体の生産と消費のバランスを取ることができるという発想である。

3. 短期の経済政策

第三の道は、日本の生産能力に対して、消費が低く、失業者がいることが前提になる経済政策なので、短期の経済政策になる。長期的には貯蓄・投資を行い、生産を効率化しないと経済成長はしないと思われるが、短期的には消費が低迷しているので有効になることは注意しておこう。

4. 政府部門の拡大は、非効率性を招く

この万能に思える第三の道だが、幾つか問題を残していないわけでもない。小野教授は、環境、介護、医療分野での政府支出を拡大を示唆しているが、これにより政府部門の非効率化が予想される。

つまり、有効な投資先が無いときに、マネージャー(=組織のトップ)に自由に動かせる資金を与えると、私的利益を追求しがちなのは良く知られいてる事実で、経済学のテキストでも当たり前のように言われている。社会保険庁の惨状を見るまでもなく、介護、医療分野への投資促進は、このエージェンシー問題を引き起こす可能性が高い。社会保障分野は、労働集約的で、資本投資による効率化が余り期待できないため、役人が私的便益を追及しがちなのだ。無駄が多いと言われる国有企業・公益法人を作成するのは、政府部門の効率性を損なう可能性があるあるし、単純なエコポイントのような消費者に対しての補助金でも事務手続きが膨大になる点は指摘したい。

5. 労働人口における介護サービス従事者が増える

労働の需給ギャップを埋めるために、人手を使う労働集約的な産業なら何でもいいのだろうが、とりあえずは介護サービスに雇用先を増やすとしている。つまり、労働人口における介護サービス従事者が増える事になる。若者全員が介護サービスに従事するわけではないとはいえ、技術立国を自負している人には寂しい日本の未来かも知れない。

なお、景気が良くなり他の産業での労働需要が増したら介護サービスから人が転職することになるのだが、実際にそんなことが可能なのかは疑いの余地はある。

6. マスコミの指摘は的確ではない

第三の道の肝は、所得再配分である。産経新聞のようなマスコミは、財政健全化の経済への効果と、成長分野への投資の有効性に着目して批判を展開しているが、あまり的を射ているとは言えない。「第三の道」ではどちらも余り大きなポイントではないためだ。

逆にマスコミは「第三の道」では、課税面では累進性を強化しつつ、政府支出においては低所得者層への優遇処置を強化しないといけない点を見過ごしている。菅内閣は、消費税の増税と子供手当ての維持を目指しているが、どちらも逆進性が強いため「第三の道」と矛盾する政策になっている。むしろ、所得税を強化し、子供手当てを廃止し、児童手当を復活させるほうが「第三の道」と整合的である事を指摘するべきであろう。

7. まとめ

なかなか独創的な第三の道だが、そのトリックはシンプルだ。しかし、整合的な政策をとらないと有効に機能しない上に、政府部門の肥大化を招く可能性が高いのに、菅首相から十分に説明が無いことが気になる。最近の報道では、消費税を巡る議論で菅首相の発言にぶれが見られており、また与党内で税制に対する姿勢の一致も見られていない事から、党内で「第三の道」への理解も得られていないのであろう。あくまでマクロ経済政策なので、具体的な制度設計は今後の課題だ。しかし、首相とその周辺が政策のポイントを把握していないと、政策の有効性は無くなってしまう。菅首相は、「第三の道」を十分に説明することで、自身が政策を理解していることを示し、周囲にその政策の有効性を説得する必要があるであろう。

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