2010年6月23日水曜日

手の中の技術史、ステンレス製断熱タンブラー

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魔法瓶というとポットを想像する世代なのだが、断熱性の高いタンブラーも最近は人気になっているようだ。 保冷・保温に優れているだけではなく、冷たい飲み物を入れても水滴がつかない利点もある、夏にPCの前で長時間作業をする人々には便利なグッズだ。

ところでこの魔法瓶、発明したのはイギリス人で、最初に製品化したのはドイツ人だが、今の真空ステンレス型の製品を開発したのは日本酸素(現在の大陽日酸)になっており、ステンレス製の断熱タンブラーは技術立国日本の象徴になっている。

歴史を振り返ってみると、魔法瓶は1891年にイギリスのデュワーが発明したものとなっている。液体酸素を入れるものだったらしいが、二重壁の内壁と外壁の間を真空にして熱伝導や対流を防ぎ、銀メッキをして放射熱も防ぐもので、現在の魔法瓶と基本的な構造は最初にできており、19世紀のイギリスの科学力を象徴するものとなっている。このデュワーと言う人物、熱の研究の第一人者であるのだが、研究のために発明品を作ってしまうところが素晴らしい。

デュワーが発明した魔法瓶は、1904年にドイツで商品化され、1911年に日本でも製造が開始されている。20世紀の初頭はドイツが最も科学力・工業力のある国のひとつで、まさにドイツの科学力は世界一という感じで製品化されている。その7年後に、日本が先進国の技術をキャッチアップしているのも興味深い。また、日本電球が国産第1号を開発して「保温保冷24時間保証真空瓶」から「魔法瓶」に商品名変えて販売していたのだが、登録商標としなかったので魔法瓶は一般名詞化してしまったらしい。戦前の日本では、権利意識が高くなかったことが伺える。

最近のタンブラーとして良く見られるステンレスの真空断熱魔法瓶は、1978年に日本酸素が開発した。魔法瓶に大きな技術革新をもたらした。ステンレスは加工が難しいため長らく実用化されなかったわけだが、1988年にもっと加工が難しいチタン製魔法瓶を開発している。素材マニアと言えるかも知れない。しかしながら、当初はガラス製の魔法瓶に押されて中々販売数が伸びなかったようだ。 現在はマーケティング戦略を見直したのか、2001年に太陽日酸(旧、日本酸素)は子会社としてサーモス社を設立して魔法瓶事業を分離し戦略を見直し、同社製品も見かけるようになっている。20世紀の後半からはマーケティングの時代でもあり、サーモス社の苦戦と成功は、時代を表している代表事例だ。

こんな100年の歴史がある魔法瓶だが、今は手の中で飲みかけのアイス・コーヒーを快適に保冷してくれるタンブラーになっている。現代的だが、歴史を感じる逸品だと言えるであろう。

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