チェコでCOVID-19ワクチンの接種の有無で妊娠率が異なったことから、同ワクチンが妊孕性に影響を及ぼすかも知れないと指摘した論文Manniche, Fürst, and Hansen (2025)が、反ワクチン界隈で広まっているらしいのだが、この結果は欠落変数バイアスによる可能性が高い。
Manniche, Fürst, and Hansen et al.(2025)はマクロデータを素朴に観察したもので、交絡因子による調整が行われていない。ワクチン接種と妊娠率は疑似相関である可能性が高くなる。実際、Wesselink et al.(2022)では最初に妊娠出産意欲を聞いた前向きコホートを形成し、その他の統制変数を含めてワクチン接種の有無と妊娠率に相関が見られないことを確認している。ワクチン接種群とワクチン接種非接種群の間で、妊娠出産意欲が異なる可能性が高い。
Manniche, Fürst, and Hansen et al.(2025)は130万人の女性のデータであるから、バイアスは解消されていると言うような話を吹聴している人がいるのだが、欠落変数バイアスはサンプルサイズを大きくしても解消されない。標準誤差が減るだけだ。
逆にWesselink et al.(2022)のサンプルサイズが2000人強であるので信頼がおけないと言う主張もあったが、一定の効果量があれば十分な数である。サンプルサイズをn倍にしても標準誤差は1/√n倍になるだけだからだ。医薬品などの認証試験である治験でも、100人に満たない数で行われることはよくある。Manniche, Furst, and Hansen et al.(2025)は(図から読み取って)出生率の29%減を主張している。この値とWesselink et al.(2022)の信頼区間と標本サイズから逆算した標準偏差と標本サイズを用いて検出力を確認してみたが、0.95を超えた。つまり、たまたま偽陰性である可能性もさほど無い。


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