2022年8月26日金曜日

メディアに出てくるスリム美人は女子の自己身体不満度を統計的に有意に上げるが、その効果量は小さいよ論文

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性化/ポルノ化が悪影響をもたらす説*1への批判において、メタアナリシス論文Ferguson (2013)*2が言及されていたのだが、要旨部分だけを見て影響が無かった証拠のように持ち出す人が出てきそうなので、その内容を簡単に紹介しておきたい。影響の存在の否定にはなっていないと言うか、むしろ影響の存在自体は確認している。

Ferguson (2013)は、メディアに出てくるマッチョとスリム美人の見た目が男女の自己身体不満度(body dissatisfaction)を下げると言う説があって、様々な実証論文で検証されてきたのだが、メタアナリシスを使って総合すると、統計的に有意に効果を観察することができるが、その効果量は小さかったことを指摘する論文だ。こう書くと単純そうだが、心理学実験(experimental study)と相関分析(cross-sectional/correlation study)、縦断研究(prospective/longitudinal study)のそれぞれでメディアの影響を多角的に評価し、

  • 女性は、身体不満度の他、神経性大食症、食事の抑制(restrictive eating)、神経性やせ症が、出版バイアスの補正を行なっても統計的に有意にメディアの影響を受ける
  • 影響は受けるが、相関係数(Pearson's r,二乗すると寄与率になる)で評価された効果量は、身体不満度において、心理学実験で0.11、相関分析で0.05、縦断研究で0.03と小さいく、摂食障害については統計的有意性はない
  • 男性は相関分析と縦断研究で身体不満度のみ効果が確認され、その効果量は0.07と0.04とやはり小さいも
  • メディアの種類によって影響に大きな違いは無い(ただしミュージック・ビデオの信頼区間が大きい)
  • 人種によって大きな差異はないが(ただし黒人の信頼区間は大きい)
  • 心理学実験では実験前から身体不満度が大きい被験者が、身体不満度を悪化させる傾向がある
  • 心理学実験では12歳未満、相関分析では20歳未満、縦断研究では大学生未満の年齢層への影響が小さい*3
  • 精緻な分析の方が観測される効果量が小さい

ことが示されている。取り立てて騒ぐほど大きな効果ではなさそうだし、肥満か何か*4で身体不満度が高い人が食事の抑制を行なったりするのは本当に問題なのか、筋トレをして身体を鍛えてメディアから影響を受けなくする方が良いのではないかと思う結果なのではあるが、メディアに出てくるスリム美人が女子の身体不満度を統計的に有意に上げるのは変わらない。

性化/ポルノ化の悪影響に警鐘を鳴らしているアメリカ心理学会(APA)のセクシー化された女子に関するタスクフォースのレポートへの批判に使うのにはちょっと弱いと言うか、摂食障害の懸念以外に関しては、むしろ裏づけになっている*5。ただし、表現規制の是非に関しては、表現規制からの利益が小さいこと、表現規制以外の解決方法が予想されることから、否定的な結果になっている。

*1Report of the APA Task Force on the Sexualization of Girls

*2Ferguson (2013) "In the eye of the beholder: Thin-ideal media affects some, but not most, viewers in a meta-analytic review of body dissatisfaction in women and men," Psychology of Popular Media Culture, Vol.2(1), pp.20–37

*3論文に言及は無かったが、研究種類ごとにばらつきがあるのは、心理学実験のみがメディアを見せる前の身体不満度をコントロールできるからだと考えられる。

*4メタアナリシスに含まれる研究の多くは米国での実験か、米国のデータを使っているものだと思うが、アメリカの肥満者の割合は3割を越える。

*5例えば自己身体不満度が認知機能を低下させる説は否定しない(関連記事:エロ可愛い格好をしている女の子は、頭が悪くなっている)し、メディアが認知機能を低下させる説の傍証になる。

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