安倍元総理の暗殺後、徐々に犯行動機となった安倍元総理など自民党を中心とする政治家と世界平和統一家庭連合(以下、統一教会)の関係が報じられ、気づくと統一教会が熱心に非難されるようになっている。そして、この世情を何かの理由で気に入らない反リベラル*1などの人々が「統一教会叩き」を非難しているのだが、問題への無関心さから主張が雑なところがあるので指摘したい。
- 1. テロリストの主張だから誤り
- 多くのテロリストの主張は多数派から見て同意し難いものではあるが、全てのテロリストの主張が誤りで受け入れ難いとは限らない。現時点で安倍元総理の暗殺犯の犯行声明は出されていないが、メディアが報じた手紙の内容などから予想される問題意識は、広く世間の共感を得ている。
- 2. テロを行なったから目的に大義が無くなった
- 手段と目的は別に考えるべき。安重根が伊藤博文を暗殺したからといって、大韓帝国の独立維持と言う目的が誤りであったとは言えない。テロリズムと言う手段が民主国家において良くないことは確かではあるが、あくまで手段がよくないと言うことで、目的や主張の是非とは別。
- 3. テロリストの動機の分析はテロの礼賛
- 統一教会と政界の関係を、安倍元総理の暗殺と関連させて論じるのは、暗殺犯を礼賛することだと言う主張があるのだが、捜査や対策に必要な行為で礼賛ではない。イスラム過激派テロリストの動機を論じるのをやめていたら、イスラム過激主義が蔓延していることにも気づかなかったはずだ。
- 4. テロをきっかけにした社会変革はダメ
- テロリストの狙いに乗る方が世の中が良くなるのであれば、乗るべき。財産権や幸福追求権との兼ね合いがあるので、収奪的な信者ビジネスを規制するような施策が出てくるとは限らないのだが、上手い施策が見つかれば導入すべきだ。
- 「鉱山の廃液処理が合法だが不十分なために公害で苦しむ農民が、鉱山会社の社長の献金先の政治家を殺して問題提起したときは、暗殺と言う手法は悪なのでその問題提起は拒絶して、暗殺犯とそれ以外の農民たちは公害に苦しみ続けるべきか?」という問いに、「農民は公害に苦しみ続けるべき」と答えられる人は少ないはず。
- 耐戦略性もない。本音では社会改革して欲しくないテロリストが、虚偽の犯行声明を出す可能性だってある。それを真に受けて改革を止めたら、やはりテロリストの思う壺。テロリストの主張する政策は悪と考えるより、政策自体がもたらす帰結で判断する方が耐戦略性がある。
- 5. テロリストの主張を精査するのは民主主義に反する
- 行政や立法がテロに萎縮してテロリストに妥協するのであれば問題ではあるが、行政や立法が自律的にテロリストの主張を精査している限りは、やはり民主的な手続きである。
- 6. テロを契機にした社会変革は模倣犯を誘発する
- 経済学のゾンビ企業を潰すべき論と同様に理屈が立てられる一方で、社会が共感する主張を持つテロリストは少ない。過去の多くのテロは社会不安をつくること自体が目的で、自らの主張が議論された上で広く理解されることを狙ってはいなかった。赤報隊事件(1987年~1990年)の犯人はメディアが暴力を恐れて萎縮することを狙ったとは思うが、それまでの右翼のテロ事件の結果から、犯行声明が共感を呼ぶとは期待していなかったはずだ。
- 7. 統一教会と他の宗教は同じ
- 宗教団体は色々あって何かにつけてお布施を求めてくるものだが、霊感ビジネスの他、信者が家族の財産を勝手に寄付をすることを誘発したり、信者が大きく生活水準を落とす結果になっていて、刑事と民事で多くの訴訟を抱えてきた宗教団体は、統一教会の他にはなかなか無い。昔の教会税は所得の10%で、これを越える水準の寄付を求めるのはやはり異常。
- 8. 霊感商法と伝統宗教のビジネスに違いは無い
- 統一教会が刑事と民事で多くの訴訟を抱えて有罪、敗訴となっていることから、裁判官が識別できる程度には異なることが分かる。実際、寺や神社が寄付を募っていたり、御守りを売ったり合格祈願をしていたりすることはあるが、自らを偽って消費者に接近したり、消費者を脅したりはしないし、消費者の生活を傾けない程度の相場である。
- 9. 統一教会と言う団体を狙い撃ちにするのは不正
- 規制や行政が統一教会を狙い撃つのは不正だが、統一教会と言いつつ収奪的な信者ビジネスを問題にしているので、決して統一教会だけが問題とされているわけではない。「法の華」と比較されていると言うことは、「法の華」も問題だと考えられていると言うことだ。
- 10. 統一教会の悪行は過去の話
- 壷や判子を売りつける霊感商法は消費者契約法の改正などで大きく減ってはいるが、異様に寄付金を集める体質は変化していないとされており*2、近年まで続くトラブルやその教義からこれからも問題を起こす蓋然性が高いと考えられているので、宗教法人の解散や、宗教活動への規制強化が議論され、政治家をはじめとした著名人の皆さんが広告塔になってはいけないと言われている。
- 11. 統一教会を反社認定をすると・・・
- 統一教会は反社と言っている人も、宗教法人を解散させて幹部を監視対象にするぐらいを目指しているので、主張者の真意は確認しよう。なお、宗教法人法第81条に基づく解散命令は、宗教法人の世俗的側面に影響するのであって、憲法の保障する精神的自由を阻害しないと言うのが最高裁の従来見解である。
- 12. 政治家が統一教会との関係を絶つのは不可能
- 絶つべきと言われている政治家と統一教会の関係にも色々な水準があって、努力目標と最低水準ぐらいは分けて考えられている。統一教会の幹部と一緒に写真に写っているとか、インタビュー受けたとか、雑誌に寄稿したとか、集会に参加したとか、献金を受けたとか色々あるのだが、ビデオレターで統一教会の活動を称えていたり、積極的に他の政治家を紹介しているのは不可抗力とはいい難い。
- 13. 政治家が選挙に立候補するときに信教の告白を求めるのは不正
- 法的に強要すると内心の自由を侵害することになるが、信仰が政策に反映される事は十分あり得るので、政治家は自らの信仰を有権者に明らかにする方が望ましいとは言える。統一教会のように政治色が極めて強い団体の場合は特にそうだ。
- 14. 政党は思想で党員を選んではいけない
- 日本の政治政党は思想や信条によって集まった組織なので、構成員に思想や信条のチェックが入るのは別におかしくない。「自民党の事務所や選挙スタッフに共産主義者がいることは許されない」だったら奇妙でもないはず。なお、民間企業も思想や信条で選んでもよい*3が、憲法が直接適用される政府機関の雇用においては、思想統制は問題になりうる。
- 15. 統一教会は違法な布教の例があっただけ
- 複数の裁判でマニュアルや講義によって信者を訓練していると組織的な不法行為を認定し*4、使用者責任を認定する場合もある。また、1970年代から100を越える民事・刑事訴訟を積み上げていることからも、違法な布教が組織的ではなかったと考えるのは難しい。
- 16. 今までも周知だったことを、今になって騒ぐのはおかしい
- 事情に詳しい人々は、ずっと批判を続けてきている。全国霊感商法対策弁護士連絡会あたりは、ずっと政治家に統一教会を裏書きするような行為をやめるように注意してきており、一部のメディアも統一教会と政治の関係を報じていた。暗殺犯も報道を見て、安倍総理と統一教会の関係を知ったはずだ。最近になって批判をはじめた人は、今まで単に目に入っていなかっただけだ。
- 17. オウム真理教の破防法適応に反対だったのに、統一教会の規制に賛成するのはおかしい
- 規制の内容と組織の性質が異なるので、両方の賛否が同じでなければ一貫性が無いと言うわけではない。
- オウム真理教の破防法適用反対の主な理由は、司法妨害などが目的でイデオロギーのために破壊活動を行ったとは言えず、指導者と幹部の一斉逮捕で破壊活動の継続性が無くなったので破防法の条文に沿わないと言うものだった。なお、オウム真理教対策としては1999年12月に「無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律」が成立している。
義務倫理、もしくは直観レベルの道徳的判断で、ずるしたヤツの主張が通るのは不正と思っている人が多そうなのだが、帰結主義で批判レベルで考えるとそうでもないと言うところには、注意して欲しい。
*1反ソーシャルリベラリズムではないという主張の人々も含むのだが、過去発言などからアメリカ流リベラリズムへの批判を加えてきている人が多い。なお、私は似非功利主義者であって、所謂リベラルではない。
*3三菱樹脂事件の判例から憲法上の制約が無く、また、労基法3条も被雇用者の差別的取り扱いを禁止するもので、採用基準を制約するものではない((5)【採用】採用の自由|雇用関係紛争判例集|労働政策研究・研修機構(JILPT))。
*4藤田庄市 (2019)「日本における統一教会の活動とその問題点 — 活字メディアで報道された批判を中心に」宗教情報リサーチセンター編『日本における外来宗教の広がり―21世紀の展開を中心に』
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