性的魅力を強調した女性表現が少年・少女に悪影響がある説があって*1、特に少女への悪影響が危惧されている。
心理学者は実験や観察からこの説の是非を検討しているのだが、数ある研究の中でゲームの登場人物のセクシー化(sexualization)は影響がとても小さいと言う研究が、人気ブログのギガジンで間接的に紹介されたこともあり、ネット界隈の表現の自由戦士の間で広まっている。
しかし、話題の論文Lindner, Trible, Pilato and Ferguson (2020)の説明*2を読んでいると、実験が上手くデザインされておらず、セクシー化の影響を評価できているとは言い難かった。
1. 介入群と対照群のセクシー化の程度の差が不明瞭
Lindner, Trible, Pilato and Ferguson (2020)は上半身が長袖のウェットスーツで下半身がビキニ*3の主人公ララ・クロフトが水中を含めて活動する『トゥームレイダー アンダーワールド』(2008年)と、上半身がタンクトップで下半身がカーゴパンツの主人公ララ・クロフトが山中を歩き回る『トゥームレイダー』(2013年)をプレーした後のbody shame/body satisfactionの差を、ランダム化比較実験で評価したものなのだが、同じシリーズであっても、同じゲームをプレーしていない。
以下は『トゥームレイダー アンダーワールド』(2008年)の主人公ララ・クロフトで、
以下は『トゥームレイダー』(2013年)の主人公ララ・クロフトだ。
場違いに露出度が高いことがセクシー化の一つの指標とされているが、両作品とも環境に適応している風のよく考えると場違いな格好になっている。山中でタンクトップは蚊や擦り傷の可能性からお勧めできない。下半身ビキニの長袖ウェットスーツも、水中から上がったあとに遺跡でアクションするララ・クロフトにはお勧めできない。全身を覆う方がより安全だ。結局、どちらもセクシー化されている。セクシー化の程度が2008年の『アンダーワールド』の方が高いと思うかも知れないが、2013年版の方がグラフィックスが向上している。違いが明確でない。
3. 実験デザインはもっと改良できた
同じゲームでプレイヤー・キャラクターの露出度を変えなかったのが謎である。違法改造ではあるが、透け透けタンクトップのララ・クロフトさんプレーもできたようだし、他のゲームであればセクシーな衣装を選ぶこともできる。同じ絵柄の違うゲームで全体のセクシー化の差異をぐっとつけるのも一つの方法だ。「DEAD OR ALIVE 3」と「DEAD OR ALIVE XTREME BEACH VOLLEYBALL」で比較したって良い。
4. 効果なしの根拠としては弱い
どちらにしろ影響は無いと思うのだが、影響が観察されそうにない実験デザインになっていると、参照するのが躊躇われる。そして、この論文の著者が書いたビデオゲームのセクシー化の悪影響を評価するメタアナリシス論文(Ferguson, Sauer et al.(2022))でも同様の結論を出して話題になっていたのだが、この論文のように実験デザインが微妙な分析を寄せ集めて微妙な結果が出てしまった可能性があるので、個別の研究を何本か真面目に読んでいかないといけないようだ(;´Д`)ハァハァ
*1Report of the APA Task Force on the Sexualization of Girlsではそういう話になっている。
*2Study: Sexualization Of Women In Games Doesn't Impact Women's Body Image
*3全身か太ももから上のウェットスーツが普通なのではないかと思ったが、こういうウエットスーツも市販されていた。
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