2019年8月23日金曜日

どこに行きたいのか文在寅

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対日批判を続けてきた韓国の文在寅大統領だが、2019年8月15日の光復節のスピーチではそれをトーンダウンさせ、日本が対話を望めば「喜んで手を結ぶ」 と柔軟な態度を見せた。しかし、日韓請求権協定に規定された、日韓で協定解釈が異なったときの対話手段である仲裁委員会の設置については拒絶し続けているし、日本国民を挑発するかのように、福島第一原発の災害・事故から8年以上経った今頃になって、日本産食品の放射線検査強化をはじめたり*1、韓国も海洋投棄を行っているトリチウムの廃棄に関して日本政府に説明を求めだしている*2。昨日はとうとう、GSOMIAの破棄を決定した。文在寅政権は、一体どうしたいのであろうか?

1. 文在寅氏は反日・親北・親中ではない

文在寅氏反日・親北・親中と判断している人々が多いわけだが、そういう行動原理ではない。筋金入りの反日家族と言うわけでもない*3し、北朝鮮からの反応を計算して北へメッセージを送っているわけでもない。三・一独立運動の記念行事に、三・一独立運動の意義を認めず抗日パルチザンが重要であったとする北朝鮮の金正恩氏を招待して断られ、米韓合同軍事演習の最中に2045年までに朝鮮半島の南北統一を成し遂げる構想を打ち出し、北朝鮮からの強い反発を招いた。北朝鮮はその体制を保存することを目的としているわけで、そこを無視した呼びかけに何か意味があるわけではない。つまり、北朝鮮の政治事情に疎い。対中関係でも、中国からの恫喝を無視してTHAADシステムの配備を完了した。

2. 相手国の都合や反応は考慮しない

対日関係だけが特別と言うわけではない。上述の対北・対中関係だけではなく、対米関係でも相手国の都合や反応は考慮していない。

GSOMIAに関しては米国が強く維持を働きかけていたが、結局、無視することになった。米国は即座に韓国の方針に強い懸念と失望を表明している。トランプ大統領が訪韓したときに、同盟国間の外交問題では中立の立場をとるアメリカの外交方針を無視し、かつトランプ大統領が個人的にも喜びそうもないのに、元慰安婦を用意してトランプ大統領に抱き着かせた。竹島への領有権を主張するディナーのメニューを用意したのも同様に、韓国の領有権を認めたかのように振舞わせる振る舞いであり、事前に話を聞いていなかった米国側は困惑したと伝えられている。イスラム国のブルネイで乾杯をしようと提案した、マレーシアでインドネシア語で挨拶をしてしまったと言うのは御愛嬌と言う感じだが、外国への無関心さは現れているとも言える。

文在寅政権は、外国政府が韓国政府の言動に応じて外交方針を変えるとは思っていないし、さらに国外に感情のある人々が住んでいることも理解していないように思える。

3. 国民情緒がドライブするロボット

情報を握る為政者として、官僚が報告する情報をもとに国益を考えて外交を展開しているわけではなく、世論を誘導したり抑制したりすることはない。世論、特に支持者たちのお気持ちが文在寅大統領をドライブしている。

南北共闘で日本に追いつくと言う主張の無茶さはあちこちから指摘されている。日本の大韓民国向け輸出管理の運用の見直しは、韓国の官僚もバカではないので、その正確な影響範囲を文在寅大統領に報告していたはずだ。だが、韓国世論に同調して禁輸措置を受けたかのように日本を非難し、しばらくして韓国世論が本当に禁輸だった場合の影響の大きさに気づいて動揺して来たら、対日批判をトーンダウンさせた。福島第一原発の災害・事故を今頃になって問題にするのも、環境への影響を官僚から正確に説明された上での事であろう。韓国世論や韓国メディアが取り上げたから、今のタイミングなわけだ。自国組織に非があると言う話は世論に不人気なので、レーダー照射問題でも韓国世論が韓国海軍が悪いと思いたくないので自衛隊機が威嚇飛行したと言う話に摩り替えたし、2010年ぐらいから韓国世論が旭日旗を問題にしはじめたので、外交上の慣習や従来の韓国政府の態度を無視して、済州島での観艦式での旭日旗の掲揚を自粛するように要請した。中国の反対を無視してTHAAD配備を強行したのも、世論が配備支持であった*4ことが大きい。GSOMIAは8月7日の世論調査*5では破棄すべきと言う回答が多く*6、とくに革新系の与党「共に民主党」の支持者では圧倒的であった。

驚くべきことではない。“国民の意思”を尊重することは就任直後から高らかに宣言されている*7し、最近も公職者がそれに反する発言をしないように戒めている*8ので、国民情緒におもねるのは文在寅大統領の表の顔である。

4. 左派勢力の政権維持が最優先の可能性

関係国の反応は考慮せず、韓国世論、韓国国民情緒に従うのが文在寅流外交術と考えれば、これまでの振る舞いに関して一貫した説明がつく。誕生直後から左派ポピュリスト政権と言う批判があるが、的を射た寸評であった。さて文在寅政権は、どこに行きたいのであろうか。何も考えていない可能性もあるが、想像してみたい。

韓国の歴代政権、外交問題で突然、機能不全に陥ることがある。2007年6月に調印された米韓FTAへの反発による米国産牛肉輸入問題騒動が、調印から1年以上経過した2008年7月に生じ、2008年2月に成立したFTA交渉を担当していない李明博政権が機能不全に陥ったことがある*9。李明博政権が決定したことではないし、外交ではpacta sunt servanda(合意は拘束する)と言う原則があるわけだが、韓国世論は経緯などは考慮しないし、反発を受けると支持率が落ちるだけではなく大規模デモが発生してしまう。必ずしも不人気な外交的合意が反発を受けるとは限らず、朴槿恵政権のときの慰安婦問題日韓合意(2015年)では意外に支持率は落ちなかったが、外交がかなりの政権運営リスクなのは変わらない。

政権を維持すると言う意味では世論になびいておくというのが重要で、かつ韓国の国内政治事情を考えると、左派政権を維持し続けることに一定の意義がある。韓国ではずっと政治勢力の集合離散が続いており、文在寅大統領が属する左派政党「共に民主党」も、前身組織があるとは言え、再編を繰り返してきている。かつての日本の民主党のように、有権者の支持を急激に失い政党が維持できないリスクは小さくない。反体制派弁護士であった文在寅氏としては、保守勢力が政権を維持し、左派勢力が野党に甘んじるのが定常状態になることは避けたいはずだ。世論の反発を回避し、政権担当能力を示さなければいけない。高い支持率を維持できれば*10、2020年4月の国政選挙の結果、憲法改正による大統領の任期と再選回数の変更も可能になるかも知れない。これは、韓国政治に安定をもたらすと考えられる。

5. 外交でどこかに行きたいと言うのはない文在寅

常軌を逸した外交方針、現実と乖離した夢想をスピーチしているように思えるわけだが、徹底した政治リアリズムが文在寅氏の心の中にある可能性も低くは無い。外交的にどこに行きたいと言うのはない一方、左派勢力の政権維持を第一目標に置いているとすれば、だいたい言動に辻褄が合う。ある意味、極めて合理的。日本政府としては他国と同様の外交が通用しないので頭が痛いわけだが。

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