2018年12月20日木曜日

喫煙者が不道徳な人間とされる理由

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喫煙者は、一定時間経つと万難を排して喫煙を試みだして同行者を平気で待たせるだけではなく、喫煙後しばらくは自分がタバコ臭いことを自覚していないし、非喫煙者と同伴していても喫煙席に座るのが当然だと思っているし、吸い殻を排水溝に捨てたり公園の砂場に埋めたりするし、喫煙をしながら料理をつくって皿に灰が落ちても気づかないし、肺を煩って酸素吸入器をつけていても一服しだして火傷したりするものだ。こんな喫煙者たちを不道徳ではないと擁護するチャレンジャーが現れた。

精神科医の熊代亨が『「喫煙者は不道徳な人間」極論ヘイトはなぜ先鋭化するのか』と言うエッセイで、『「健康は道徳的で、不健康は不道徳的である」という意識が、健康意識の高まりとともに社会全体に浸透してきた』ため、「分煙化が進んだことによって、受動禁煙は大幅に減った」のに『喫煙者が不道徳とみなされ、ひいては喫煙者に不道徳な人間という烙印を押されかねない社会』になったが、それが望ましい社会とは言えないと主張している。「医療費の増大を論拠として喫煙者を非難できるなら、高齢になればなるほど医療費がかかるという全体的傾向を踏まえたうえで、高齢であることへの非難や、長寿が実現した社会に対する非難も成立する」とも主張している。

健康と長寿は古来より人々の普遍的な幸福と見なされているので、最近になって重視されているわけでもないし、吸わなくてもよいと思っている人が多いタバコとは同列には扱えない幸福追求である。少なくとも社会は健康増進を常に謳っている。客観主義の功利主義でも考えておこう。不健康の不効用は強烈なものである一方、煙草をやめる人は多数いることから考えれば、喫煙から得られる効用など大したものではない。むしろ、中毒的に自己コントロールが上手くいかないために喫煙を続けている人が多いわけで、パターナリスティックな介入が正当化される。カントの義務論で考えても、健康な生活は万人に勧めることができる上に努力が必要なので格律になりうるし、中毒患者が禁煙を試みることには大きな道徳的価値があるが、喫煙習慣は格律にはならないであろう。たぶん。なお、病気にならない事、病気にさせない事が道徳的なのだから、比較されている糖尿病やうつ病の予防は道徳的である。

「分煙化が進んだことによって、受動禁煙(の害)は大幅に減った」ので、喫煙は「(自身の健康を代償にすると言う意味での)自己責任の範疇」としているのも問題だ。喫煙の外部不経済は完全に解消されていない。飲食店などで分煙が進んでいるだけでまだ完璧ではないし、家庭や職場で受動喫煙にさらされることはまだまだある。ヘビースモーカーの夫を持つ妻が間接喫煙で発がん確率を増しうることはよく知られている*1し、心疾患の発症率を引き上げると言う研究は手堅いように思える*2し、分煙されていても従業員は間接喫煙を受けることにより何らかの健康被害を受けていると考えられる*3。たばこの火の不始末による火災も忘れてはいけない。喫煙後、しばらくは臭いし、吸い殻や灰の始末が不十分で汚らしい面も、周囲に不愉快を強いている。喫煙するために周囲を振り回す行動も、喫煙者が巻き起こす外部不経済と言えるであろう。

なお、「喫煙者が不道徳とみなされ、ひいては喫煙者に不道徳な人間という烙印を押されかねない社会」であっても、不道徳な人間に私的制裁を加えるのでなければ大きな問題にはならない。むしろ外部不経済の問題もまだあって喫煙者に不都合な政策も必要になるであろうし、ニコチン中毒の問題から喫煙者に救いの手を差し伸べる必要もあるわけだから、喫煙は不道徳としておく方が良いであろう。完全に密閉されたカプセル内でしか喫煙が不可能になり、そのカプセルの利用記録が健康保険と連動するようになって健康保険料などが自動調整*4され、錠剤一錠でニコチン中毒でなくなる近未来においては、個人の身体の処分の自由の問題に還元されそうだが、まだまだ先の話である。さて、一服するかな( ゚Д゚)y─┛~~

*1いわゆる平山論文。飲食店などにおける間接喫煙の効果にもそのまま挿入して考えようと言うのはどうかと思うが、ある状況下で間接喫煙ががん罹患率を引き上げるとは言える。

*2疫学研究では研究ごとに統計的有意性があったりなかったりするのだが、前向きコホートで喫煙者の配偶者を持つ非喫煙者の男女の心疾患が統計的に有意だと示した研究があり(Helsing et al. (1988))、有意性が無い研究よりも識別がしっかり出来ていそうである。

*3関連記事:飲食店内の副流煙の有害性を示す文句をつけづらいある研究

*4喫煙による医療費の増大は病気がちになって増える説(関連記事:喫煙者は早死にするので医療費を減らす?)と、早死にするから減る説(林田・村上・高橋・辻・今中 (2012)「喫煙者と非喫煙者の生涯医療費」日本衛生学雑誌, 67(1))のが二つがあるので、どう調整されるかは自明ではない。がん治療薬の薬価高騰から考えると、しばらくは医療費の増加になりそうだが。

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