2018年11月8日木曜日

貨幣が語るローマ帝国史—権力と図像の千年

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ネット界隈で貨幣の起源に関する話がたまに流れているのを見かけるのだが、追いかけるとだいたい胡散臭い。先日も『貨幣が語るローマ帝国史』に、古代ギリシャや古代ローマではインフレを防ぐために硬貨に意匠を掘ったような事が書いてあると言うツイートを見かけて確認してみたのだが、そんな事は書いていなかった。

古代ギリシャで意匠を掘り金や銀の比率を保証することで、リディア以来秤量貨幣だった硬貨が計数貨幣として機能するようになり流通が盛んになると、今度は金や銀の比率を下げて歳入を増加させても硬貨を流通させることができたような話はあった(pp.8—11)のだが、経済学的にはインフレになると言及していたし*1、都市ごとに硬貨を鋳造していたので為替レートも変わることになったであろう。

ローマ帝国の硬貨の意匠と共和制~帝政の政治事情の関係を論じた本であって、分類すると政治学の本になる。権力者が死んだあとに神格化されたり、生きている間も下っ端に崇められたりするのに、コインの意匠が使われるのが分かるし、キリスト教の受容などでも変化が見られるのが面白い。テーマだけに、図は豊富。古代地中海世界の歴史など忘れてしまった人は多いと思うが、後ろに年表もついている。しかし、硬貨製造に関わる原料や技術の話や、ローマ帝国の通貨政策については書かれている本ではなかった。

ところで、伝説ではアルキメデスまでは体積を測れなかったので、小アジアの皆さんが秤量貨幣をどのように検査していたのかが謎になった。答えを知っている人がいたら教えてください(;´Д`)ハァハァ

*1(本書にはこんな事は書いていなかったが)風説ではギリシャでは銀が不足していてそれが銀含有量の低下の理由になったそうなので、デフレーションを相殺する程度のインフレーションに過ぎなかったかも知れない。

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