2018年4月26日木曜日

経済学徒で無い人にも薦めたい『ひたすら読むエコノミクス』

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今は経済学帝国主義の時代、経済学を語りたいネット界隈の住民は多いが、頓珍漢な話になっている事は多い。経済学史の本しか読んでおらず、基本的な経済学の知識に大きな欠落があるのだ。ケインズあたりの昔の偉人の台詞を持ってきて経済を語り出す手合いは、この傾向が強い。合理性など基本的な経済学用語の意味を誤解していたり、時間的に消費者理論あたりで力尽きるのか、今では常識的なトピックも欠落している人もいる。

経済学の基礎と言えばミクロ経済学なので、ミクロ経済学の分厚い教科書を熟読するように薦めたくなるのだが、数式とそれをプロットした例図の理解と計算問題がそれなりの比重を占めるせいか、分野外の人にはなかなかしっかり読まれない。専門外のことに時間を注ぐのは荷は重いものだ。数式の無いミクロ経済学の本と言う無理なモノが必要になるのだが、そういう便利な本がだいぶ前に出ていたので紹介したい。

ひたすら読むエコノミクス』は、経済学徒では無い人、特に社会学など人文系で経済学徒と共通の事象に興味関心がある人々に薦めたい本だ。あえて分類すればミクロ経済学の部分均衡分析を中心とした実証よりの話が詰まっている副読本*1になるであろうが、問題集などではなく独立した読み物になっている。これで経済学を習得できた気にならず教科書でしっかり学べと書いてあるが、取り上げられているトピックに関しては分かった気になっても大きく困らないように慎重に書かれている。数式ゼロとはいかなかったようだが、それでも四則演算しか使われていない。

例えばオークション理論の収入同値定理は濫用されやすい議論だが、それが成立しないケースについてもちゃんと言及してあるし、イエスマンの発生メカニズムの説明は、念頭に置いている数理モデルが想像できるぐらい丁寧な書き方になっている。一方で、説明に日本レストランシステムと東芝などの具体的な固有名を挙げた実例が多く、衒学的な感想もそうは抱かないであろう。市場均衡など架空の設定などと言い始める人のために、しっかりバーノン・スミスの実験結果なども紹介されている。カバーしてある範囲も、オークションやマッチング理論などもカバーされている分、広いとも言える。丁寧な説明と実例は、経済学部の学部生にとっても学ぶところは多いと思う。私は日本の安定マッチング・アルゴリズムの実用例を知らなかった。

もちろん教科書では無いので、大胆な割愛はある。消費者理論のスルツキー分解、生産者理論の損益分岐点や操業停止点、純粋交換経済のエッジワース・ボックスなど、経済学徒としては知っておかないといけない幾つもの話がない。思い切った感じもするのだが、効用関数や費用関数をチマチマ計算して需要/供給曲線を導出したり、双対性などを確かめたりしないので話の流れ的に入らなかったのであろう。もしかしたら、ミクロな事実解明的な理論分析を理解するのに、少なくとも表面的には知らなくても済んだりもするので省かれたのかも知れない。逆に考えると、消費者理論や生産者理論の細かすぎる話で頭がクラクラして経済学で何をやっているのかわからなくなったと言う人には特に、強くオススメできる本になっている。

*1規範的な議論が詰まった『幸せのための経済学』をあわせて読んでおくと、補完関係があって良いと思う(関連記事:幸せのための経済学――効率と衡平の考え方)。

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