2017年11月1日水曜日

ICT投資と非ICT投資を分けると日本のTFP成長率が落ちる理由

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先日のエントリーで紹介したTEDのTFP成長率の90年代の値が、Hayashi and Prescott(2002)のものと比較して格段に低くなっている理由について議論があったので、考察を加えてみた。結論を先に述べると、HP論文ではICTと非ICT投資の配分効率性の改善をTFPの改善として計測してしまうため、ICTと非ICT投資を分けているTEDよりもTFP成長率が高めに推移していると考えられる。

1. TEDとHP論文の推計方法の違い

TEDとHP論文を比較すると、TEDの方が緻密にやっている*1。HP論文では投入要素は労働と資本の2種類ではあるが、TEDの方は労働と資本の種類を細かく分けている。労働力の質を3段階に分けているし、資本もICT投資と非ICT投資をあわせて6種類に分けて考えている。HP論文では労働力の質は結果に大きな影響を及ぼさないと説明しており、ICT投資と非ICT投資の区分けの有無が両者の差異を引き起こしている蓋然性が高い。

大雑把にTFPの計測方法を確認しよう。TEDでもHP論文でもコブ・ダグラス型の生産関数を考えている。HP論文の方を先に見ると、

であり、Yが国内総生産、AHPがHPの全要素生産性、Lが投入された労働力、Kが資本ストック、αが労働分配率、βが資本分配率となっている。資本稼働率は、HP論文もTEDも省略されていた。一方、TEDの方は(本当はもっと細かいが)、

となっている。Y、L、α、βはHP論文とTEDで共通であり、数値の取り方も同じである*2。HP論文に無いノーテーションは、ATEDがTEDの全要素生産性、K1がICT資本ストック、K2が非ICT資本ストック、s1とs2は、それぞれICT/非ICT資本ストックの資本レンタル価格・資本ストック量のシェアの2期間の平均値となっている。

2. ICT/非ICT投資の配分の変化と全要素生産性

AHPとATEDの差異を決定するのは、K1、K2、s1、s2になる。さて、Kが一定で、K1とK2の比率が変化し、配分効率的になったとしよう。TEDの式ではYが上昇するが、ATEDに変化は無い。HP論文では、YはTEDと共通なので上昇する一方、LやKやαやβは一定なので、AHPは増えることになる。逆に、配分非効率になった場合、ATEDに変化が無い一方、AHPは減ることになる。

3. ICT/非ICTの資本シェアと投資量の推移

TEDのTFP成長率はGrowth Accounting and Total Factor Productivity, 1990-2016のTCB ORIGINALを参照しているが、そこで計算に用いたICT/非ICTの資本投入量の変化率の推移と、ICT/非ICTの資本シェアの推移を確認することができる。ICT資本シェアは1990年から1993年までの間に跳ね上がり、1996年からICTの投資量の増加率が非ICTを上回っている。TFP成長率がマイナスであった時期は、ICT投資が盛んであった。

4. 日本の投資の内訳は適切であったか?

配分効率的になれば、HP論文のTFP成長率の方が大きくなり、配分非効率になれば逆になる。1990年代は、HPで横ばい、TEDで下がっているので、配分効率的になったと考えられる。よって、日本の投資の内訳は適切であった。

一方でTEDのTFP成長率が低下していると言うことは、配分効率性以外の成長率低下要因が何かあったことを示唆している*3。TEDとHP論文の推定値に整合性があるのであれば、TFPの低下を配分効率性の改善で補っていたと言うことになるであろう。

*1TED - Sources & Methods - Detailed Description

Hayashi and Prescott(2002) "The 1990s in Japan: A Lost Decade"

*2TEDの資本ストックKは になっており、HP論文のものとは一致しない。HP論文では、総資本をとっているので、K=K1+K2になっている。

*3日本ではTFPが高い産業部門の製造業が、過去25年間で従事者数を1500万人から1000万人に減らしているが、サービス業の拡大はTFPの悪化要因の一つであろう。

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