2015年7月29日水曜日

中国脅威論を言い出した安倍総理は新安保法案を理解していない

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現在参議院で審議されている安全保障法制だが、主唱者の安倍総理が法案を良く理解していない可能性が高まってきた。7月28日に中国脅威論を持ち出してきた*1のだが、それが問題となっている集団安全保障の部分とはほとんど関係が無いように思えるからだ。この法案では南シナ海で中国に対抗する術が無い。それどころか東シナ海での動きにも、具体的な対応は書かれておらず、実際のところ無力だ。安倍総理は、ネット上に多数いる法案を読みもせず対中国だと言っている人に騙されてしまっていないであろうか。

1. 東シナ海で無力

新安保法案、かなり多岐に渡る内容を同時に改正しようとしているのだが、東シナ海での中国の動きに対応している部分を見ると、「事態の的確な把握」「事態への対処」「迅速な閣議手続等」「事案発生前からの緊密な連携等」とあるが、具体的な所は何も無い。例えば「我が国の領海及び内水で国際法上の無害通航に該当しない航行を行う外国軍艦への対処について」を確認されたい。1969年に中ソ国境紛争を起こした中国共産党が、こんなもんで止まるわけが無い。

2. 南シナ海で無力

南シナ海では日本は当事者足り得ない。関与するには集団安全保障の枠組みが必要になるのは確かだが、今回の法案では中国の南シナ海進出には使えない。国際平和支援法は「国際連合の総会又は安全保障理事会の決議」が要求されるので、拒否権を持つ常任理事国相手に仕える可能性は無い。平和安全法制整備法の方は存立危機事態が必要になるが、他国同士の領有権問題がそれに該当するわけではない。

3. もっと現実的な事例を

もう少し現実的な事例を説明できないものであろうか。

国際平和支援法は、アルカイダやイスラム国(ISIL)への軍事攻撃(国際平和共同対処事態)を支援しやすくするのが目的*2で、こちらの重要性を強調するべきであろう。「切れ目が無い」を強調しているのは、アフガニスタン戦争でインド洋での米軍への給油活動が途切れた事を言っているのでは無いであろうか*3

存立危機事態の方も、朝鮮戦争の再開を意識しているように思える。米軍以外との協力が盛り込まれているが、実際問題、朝鮮半島で韓国軍やその他国連軍と協力することを念頭に置いたものであろう。米軍以外にも武器弾薬を渡せるようにしているし、北朝鮮の弾道ミサイルに対して効果的なTHAAD(終末高高度防衛)ミサイルの配備などにも配慮しているからだ。

中国の脅威に米軍と共同対処するために、国際平和支援法で他の地域の米軍の活動にもコミットして恩を売ると言いたかったのかも知れないが*5、もっと直接的な目的と効果を説明する方が容易なはず。新安保法案への国民の理解が進んでいないとされるが、安倍総理の理解度こそ不安になる国会答弁が続いている。

*1「安倍首相、中国名指しし安保法案の必要性強調」 News i - TBSの動画ニュースサイト

*2もっとも安倍総理は「政府としては政策判断としてISILに対する軍事的作戦を行う有志連合に参加する考えはなく、作戦への後方支援を行うことは全く考えていない」(NHK)と言ってしまっていて、国際平和支援法の意義をかなり否定してしまっている。

*3米国に協力することで日米安保体制を固めたい意図があるわけだが、中東情勢を見て積極平和主義自体の倫理的な必要性を主張することも不可能ではないであろう。合憲とは限らないが。

*4上述の国会答弁から、大半の米軍の軍事活動を支援できない可能性があるので、この意図が本当にあるのかも疑念は残る。

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