2015年2月18日水曜日

今、左派は金融緩和や財政政策を訴えるべきなのか?

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マルクス経済学者の松尾匡氏へのインタビュー記事、「左派こそ金融緩和を重視するべき」が、朝日新聞のサイトに掲載されていた。出だしは左派は雇用拡大を重視しているのだから金融ハト派であるべきと言う話で、金融政策に限らず消費税など財政政策への言及が多くなっていた。しかし、話の前提が成立していない気がする。今はマクロ経済政策が必要な不景気なのであろうか?

1. 雇用はかなり良い水準

消費増税後、四半期GDPが2期連続でマイナス成長になった事は事実だ。しかし、駆け込み需要とその反動で説明できる景気後退であって、直近の速報値はプラス成長に転じた。そして、雇用はかなり良い水準だ。

記事中でも記者から質問されていたが、完全失業率3.4%は、1997年8月以来、17年4ヶ月ぶりの数字となっている。有効求人倍率1.15は、1992年4月以来だ。大卒や新卒の内定状況も良く*1、非正規雇用の賃金の改善、非正規から正規への転換など、雇用の質も改善している*2。増税前後で傾向は変わらない。

雇用は遅行指数だから、これから悪化する可能性があると言及されてはいる。しかし、有効求人倍率は景気一致系列だし、完全失業率も過去の傾向を見ると半年ぐらいで悪化は見て取れるはずだ*3。既に増税から9ヶ月が経過している。

2. 陥りがちな三つの思い込み

もっと改善の余地がある可能性もある。しかし、指標の上限を見極めてというより、三つの思い込みで金融緩和や財政出動(もしくは減税)を訴えていそうだ。

一つは、消費増税を行なうと、1997年の消費増税後の経済状況が繰り返されると言う錯覚だ。実際は、過去三度の消費税導入後、税率引き上げ後のマクロ経済に一貫した傾向は無い。これは増税以外の要素の方が重大な事を意味する。

一つは、潜在的な経済成長率が、今よりずっと高いと言う幻想だ。経済成長、とくに一人あたりの数字は、消費の拡大など経済厚生の改善につながるので望ましい。しかし先進国にキャッチアップすると経済成長のペースは鈍化するし、少子高齢化の影響も受ける*4。松尾氏は「昨年は景気が後退」と指摘しているが、大した後退では無いかも知れない。

一つは、消費税率引き上げで、実質賃金が減って可処分所得が減ったのが問題だと言う錯覚だ。増税とは可処分所得を民間から政府へ移転する行為なのだから、当然の帰結であって何ら問題ではない。増税で生活が苦しくなりました ─ 計算通り。投資が減って雇用が悪化したりしない限りは、問題ではない。

3. その他の部分で気になる所

若者の失業率は確かに高いのだが、求人状況は悪く無い。「働きたくても働けず、暮らしでひどい目にあっている」とは言えないであろう。仕事を選んでいる可能性の方が高い*5

後は細かいところだが、「円高の時、低価格の輸入品と競合していた農家などは円安のおかげで助かっている」は、大半の農家が保護貿易下で国内向け生産をしていて、円安で飼料や燃料の価格が上がって苦しんでいるので、例外的な話に思える。

「食料品に限って消費税を非課税にしてはどうか」は絶対にあかん*6。本当に増税で生活が立ち行かなくなった人々がいたとしても、高級和牛の税率を下げる必要は無い。給付付税額控除の方が望ましいし、臨時福祉給付金(簡素な給付措置)の拡大の方がまだマシだ。

2 コメント:

松尾匡 さんのコメント...

記事着目いただいてありがとうございます。

まあざっくり言うと、この雇用で満足するかどうか、学的にある程度の幅で決まる中でどんなところをもって完全雇用とするか等々というのはかなり政治的な判断だと思います。
そのこと自体を論じると水掛け論になると思いますが、この記事で言いたいのは、いろんな立場の勢力がそれぞれの政治的判断を主張するべきところ、本来自分のあるべき立場とはねじれた主張をしてはいけないでしょうというのが主旨です。

まあ、もっとも春以降景気回復はそれなりに本格化すると思いますので、これからこんなことが言える余地はどんどん少なくなっていくとは思います。幸運にも我が陣営に私の主張が認められる日がきても、そのときにはもう手遅れという心配はしております。

なお、所得税増税などの場合貯蓄にまわっていたはずの分も含めて政府支出されるのと異なり、消費税増税の場合は、すべて支出されたはずの購買力が政府に移転するので、一番うまくいってプラマイゼロで、現実には需要が減らないはずはないと思います。

食料品非課税の問題ですが、自分としては公平性のことはここではあまり考えておらず、高級牛肉でも何でもスパンと一律と思っています。
本来消費税という制度を今導入することの何が問題かというと、消費財部門から政府支出先部門に生産資源の配分替えをするのが制度の本質だからだと思っています。

これが定着すると、所得分配の変化に伴う消費財需要の変化に機敏に対応できなくなる。つまり、将来完全雇用になって賃金が上がって、企業部門から勤労家計部門に所得が移転した時、消費財部門の拡大が簡単には追いつかずに消費財インフレになって生活が苦しくなる人が出る一方、設備投資などの企業側からの需要の減だけが先にきて景気が後退する等々のことが懸念されます。

だからせめて食料品だけは資源配分が減らないようにするのが適当ではないかと思っています。所得分配の変化に対する食料品部門内の需要の変化に対応することは比較的簡単なことだと思います。

uncorrelated さんのコメント...

>>松尾匡 さん

どうもです。雇用の上限がどこかは意見が割れそうですが、生産年齢の労働力率を見ても戦後最高になっていそうです。

> 消費財部門から政府支出先部門に生産資源の配分替えをするのが制度の本質

拡大している支出先は社会保障関連費用なので、医療や年金に傾斜するのが問題なのかが議論になりそうですね。新自由主義者なら問題と言いそうですが。

> せめて食料品だけは資源配分が減らないようにするのが適当ではないかと思っています。

食料品の中でも、必需品への資源配分は減らないのでは無いでしょうか。

需要の価格弾力性を考えると、消費税率の引き上げで、食料品の中でも必需品である米などへの需要は減らないですし、奢侈である高級食材は需要が減ることになります。

もちろん、新古典派経済学を前提にした話ですが。

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