2014年5月27日火曜日

大日本帝国陸軍のへたれっぷりが分かる『日本軍と日本兵』

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終戦後、だいぶ時間が経ったせいか、太平洋戦争で日本軍がどれぐらい弱かったのか良く認識できない人が増えてきたそうだ。脆弱で知られた大日本帝国陸軍を賛美しだす人々までいるらしい。埼玉大学の一ノ瀬俊也氏の『日本軍と日本兵』は、そういう根拠不明な思い込みを、米陸軍省軍事情報部の兵員向け情報誌Intelligence Bulletinを中心に、大日本帝国陸軍の実像を描くことで間接的に否定しようとする本だ。数量として細かい戦果や被害は示されていないものの、陸軍の作戦行動の変遷やその妥当性についての知識を得ることができる。

描かれる大日本帝国陸軍は実際のそれと近いと十分に信頼できるように思える。著者が「はじめに」で議論しているが、米軍のIntelligence Bulletinを参照しているのは正しい方向に思える。一方の当事者の刊行物であり偏った見方になる可能性が高いわけだが、米軍は兵員の生還率に配慮していた軍隊であり、誤った情報を兵員に教えないように情報を収集、整理、配信する理由があり、それが正しいとされていたようだからだ。また、終戦まで刊行されていた日本軍の戦術変化を同一の雑誌で追うことが出来るのも長所に思える。所どころで他の資料との突合せも行われている。

多少は戦史に興味関心がある人から見れば、そこに描かれる大日本帝国陸軍に意外性は多くは無いかも知れない。白兵戦に弱かったこと、指揮系統の乱れに弱かったこと、士気が必ずしも高く無かった事は興味深い。しかし、遠隔地での補給戦の弱さ、医療や衛生面での脆弱さ、武装の貧弱さなどは広く知られていると思うし、包囲突撃を重視した初期の戦術的失敗と、持久戦を展開した後期の戦術的改良も、改良が施された時期や進展はともかく、太平洋戦争の記述では良く言及されていると思う。傷病者の軽視も、自爆攻撃が命令されていたわけで、意外性は無い。

これは本書が平凡だと言う意味ではない。戦術変更により三八式歩兵銃から九六式軽機関銃に主力兵器が移っていった事、自爆攻撃による対戦車戦術が有効に機能し無かった事などの、細部の記述が実感を与えてくれるし、硫黄島や沖縄戦で戦火をあげた洞窟などにこもって上陸した米軍に火力を向ける持久戦術がそれ以前に組織的に試されている事は私は知らなかった。玉砕攻撃が推奨されずむしろ抑制されており、降伏や撤退を許さなかった事から生じていた事を知らない人も多いかも知れない。相手側の米軍報告書からこれだけの事が分かるのは、やはり新鮮だと思う。

本書は「日本軍は兵は優秀、中堅幹部は良好、上級指揮官は無能」のような言説を好む人が、実際の日本陸軍を知るのにとても良い本だと思う。時代遅れのへたれ軍隊が、どの程度のものだったかを良く知ることができる。逆に日本軍が精神論でバンザイ突撃を繰り返す軍隊だと思っている人が、脆弱な戦力で米軍への対抗手段を模索していた事を知るのにも良いと思う。上層部に対する言及は元大本営参謀・陸軍中佐の原四郎の講演から陸軍の面子の維持が戦略目標になってしまっていた事に限られるが、戦場から見た戦史で「兵は優秀」の虚実を知ることも、歴史の理解には重要だ。

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