2013年12月19日木曜日

消費税の公平性について反論をしてみる

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本職のマクロ経済学屋さんと議論すると負けるわけだが、疑問点を述べてはいけない理由もないので、無謀な反論をしてみたい。

消費税の逆進性についてunrepresentative agentで所感が述べられている。曰く、高所得者が生涯所得を使い切る事が無くても、子孫がその遺産を消費するであろうから、家計単位で見れば所得は遣い切られるわけで、消費税の逆進性は無いそうだ。この議論は、実経済で成立しているのであろうか?

1. 家計単位で長期を見れば消費税は公平と言えるか?

蓄財型人物の子孫に放蕩型が現われれば、結局は同一の税率が課せられると言うのは理解できる。しかし実際には階層の固定化が問題になっており、公平な状態が成立していると言えるのかが分からない。

「マクロ全体で見れば、全国民の資産額は比較的安定している」、つまり蓄財型と同じぐらい放蕩型が社会に存在していると指摘されているのだが、マクロ全体で見ると資本ストックの蓄積に応じて全国民の資産額は増えているはずだ。また全体が一定でも、分配がどうなっているかは保証されない。

富が富を生む状況もあるかも知れない。古臭い議論で恐縮なのだが、家計に借入制約があり金持ちでないと良い教育投資を受けられない社会では、階層の分化と固定化が進む*1ことになる(Galor and Zeira (1992))。また、利子所得も無視できないかも知れない*2

歴史的には貴族は没落したわけで、永続的に蓄財型人物の子孫が蓄財型とも言えないから、いつかは財産は全て消費されるのかも知れない。しかし、百年単位で公平性があると言われても、それまでの世代からしてみれば消費税は逆進的に見えるであろう。百年先に消費税があるか分からないし、資産を持って国外に移住するかも知れない*3

2. その他の消費税の逆進性についての議論

消費税が投資水準を低下させず、景気に左右されないなどの利点があり、累進性が必要であれば他の税制を用いるべきだと言う主張には同意できる。家計単位で長期を見れば消費税は中立と言う議論も、理屈としては理解できる。しかし、世にある議論は少し違う。

ライフサイクル仮説(=一生のスパン)で見れば公平だ*4とか、むしろ『消費税は「累進的」』だと言う議論がされている*5。理屈は色々とつけられているのだが、以下の素朴な疑問を説明できているように思えない。

相続財産は毎年50兆円を超えていると思われ(宮本(2010) 図表1)、そのうち金融資産は約2割とされるので10兆円以上になる。さらに土地売買代金には消費税がかからないので、不動産資産の一部も取得時に消費税負担の無い資産になる。平成22年度年次経済財政報告の記述では「70歳以上では・・・消費性向は100%前後であり、貯蓄は取り崩していない」とある。本当に人々は稼いだ額を使い果たして死んでいくと仮定していいのであろうか。

世間一般で心配されるほど逆進性があるわけではないと言いたいのは分かるのだが、ライフサイクル仮説で見れば公平だとまで言ってしまうのは乱暴な面もあるわけで、主張者の世間への説明の仕方に対する批判はそう不当でもないであろう。

嗚呼、あまり反論になっていないやヽ(´ー`)ノマターリ

A. どーでもいい所

ウィリアム・ゲイツ氏は資産の大半を慈善事業に寄付してしまう予定だし、2008年にバロン・ヒルトン氏も遺産の大部分を慈善団体に寄付する方針だと報じられ、パリス・ヒルトンが得る相続財産は考えられているよりも少ない可能性があるので、蓄財型をビルゲイツ型、放蕩型をパリスヒルトン型と言うのは妥当ではないかも知れない。他にいいネーミングは思いつかないけれども。

*1階層が固定化したあとは相続した財産と同額を遺産として残すので所得と消費は同額になるが、中間層→富裕層と成り上がった初期の世代は所得と消費のバランスが崩れる。

*2利子率と消費の時間選好率の大小関係が重要になりそうだが、資産額に応じて後者は減少していく気がする。

*3国外に移住しても消費税/VATが待ち構えているであろうが、稼いだ国と異なる国で納税するわけで、やはり公平性の観点からは問題になるであろう。

*4消費税に「逆進性」は存在しない』で小黒氏が「60歳代・70歳代で3000万円以上の金融資産を持つ家計の割合は少ない」ことから、生涯所得と生涯消費はほぼ均衡していると主張している。

*5大竹・小原(2005)「消費税は本当に逆進的か

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