2013年6月10日月曜日

池田信夫症候群 ─ 参照先は読んで欲しい

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経済評論家の池田信夫氏が、情報の非対称性やエージェンシー問題に関して、それでノーベル経済学賞をもらったスティグリッツを批判している(スティグリッツ症候群)。しかし、批判対象の論文を読んでいないか、参照先/リンク先を誤ったようだ。

1. 批判している内容が、参照先に書かれていない

池田氏の文書の問題箇所は以下。

その例としてタレブがあげているのは、巨額のもうけを出したくせに金融危機で政府に助けてもらった巨大金融機関で、彼らのモラルハザードを助長したのがスティグリッツだ。彼は2002年の論文でファニーメイとフレディーマックに対する政府の出資は貧しい人々が住宅を得るための援助であり、財政的なリスクもないとお墨付きを与えた。2008年に両社は破産し、米政府は彼らの不良債権7500億ドルを引き受けたが、スティグリッツは今に至るも自分の責任を認めていない。

思想的にはスティグリッツはリベラルで、公的金融機関の機能を評価していたとしてもおかしく無いが、「2002年の論文」ことStiglitz, Orszag and Orszag(2002)には「ファニーメイとフレディーマックに対する政府の出資は貧しい人々が住宅を得るための援助」とも「財政的なリスクもない」とも書いてない。

2. Stiglitz, Orszag and Orszag(2002)に書かれていること

Fannie MaeとFreddie Macは政府が出資した公的金融機関で、住宅ローンの流通市場で活動しており、優良住宅ローンに保証を与える機能と、住宅ローンとモーゲージ証券を保有する機能を持つ。ただし、直接、住宅ローンを提供する機能は無い。

同論文ではFannie MaeとFreddie Macがストレス・テストで、金利変動と貸倒損失と言うリスクに十分な耐性がある事を示しつつ、暗黙の政府保証コストが十分に低いと主張している。ただし過去40年間の経験よりもリスクが大きいGreat Depressionと似たショックと、監督官庁が情報の非対称性、つまりエージェンシー問題でリスク監査に失敗する潜在的可能性は、各種状況から低いとしつつも、否定はしていない。

結論部分に興味深い指摘がある。もしFannie MaeとFreddie Macが無くなったとしても、これら公的金融機関にかかっている政府負担は無くす事ができないそうだ。

  1. 巨大銀行が公的金融機関と同様の役割を果たす。それら巨大銀行が危機に陥ったとしても、too big to fail(大きすぎて潰せない)で政府は救済せざるをえない。
  2. Fannie MaeとFreddie Macに救済措置が必要になる住宅市場の悪化の場合、住宅ローン市場の構造に関わらず、政府は介入せざるをえない。

公的金融機関を無くしても無駄だから、公的金融機関を残しておけと言う事らしい。

3. やはりスティグリッツは偉人

過去40年間には無かった深刻さのサブプライム・ローンから波及したリーマン・ショックで救済された巨大銀行は数知れずあるので、むしろスティグリッツの指摘は正鵠を射ているように思える。批判よりも、むしろ賞賛に値する気もするのだが、論文の中身を良く読まないとこういう事にも気付けないのであろう。

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