2012年9月9日日曜日

社会保障の経済的側面?

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平成24年版厚生労働白書に関連した「社会保障を考える」と言うブログのエントリーがある。社会保障がいかに経済に貢献するかについて説明されているのだが、違和感を感じる点がある。社会学の人が書いていると思うのだが、想定されている人間行動に整合性が無いのだ。重箱の隅をつつくような感じだが、気になる部分を批判してみたい。

  1. 第1と第4でリスク回避度への影響を議論しているが、一貫していない。第1にで、生活保障がされると生存の為にではなく付加価値を高めるために競争を行うとしている。つまりリスク選好的になる。第4にでは、好況時にリスク回避的になり、不況時にリスク選好的になるとしている。好況時にリスク回避的になる理由は、明記されていない。
  2. 第2と第3で労働生産性の低い産業を排除し、低賃金労働を無くす機能を主張しているが、そこで述べられている企業家の行動がおかしい。エントリーでは企業家が、低賃金労働者を搾取するビジネスと、新しい製品やサービスを生み出すビジネスの二つを持ち、後者の方が経済成長につながる、つまり労働生産性や収益性が高い事を想定している。しかし、企業家は、社会保障で低賃金労働者がいなくなって初めて後者を実行すると言う。企業家は利益を上げるよりも、労働者を虐待する事に喜びを感じるのであろうか?
  3. 「最後に」で「市場競争への参加の機会を均等化」と主張しているが、これはどちらかと言うば、教育サービス、保育サービスの問題では無いであろうか。なお市場が完全であれば、民間で適正な水準に教育・保育サービスの提供ができる。つまり、お金が無くて学費が払えない人も教育ローンが組める事になるので、市場の不完全性を議論する必要がある。
  4. マイナーな所だが、『公共投資のほうが、より強力に需要と雇用を生み出す』とあるが、介護事業などを政府がすれば公共投資と同じ扱いになる。社会保障だから移転所得だと考えるべきとは言えない。大阪大学の小野善康氏は、政府が介護サービス事業をしろと主張していた。ただし、指摘されている通り、他の公共投資と比較して優位とは言えない。

こういう、もっともらしいが内部整合性の無い主張がされると、『「経済学の知見がない」という批判』が発生することになる。最近の「経済学の知見」は無闇に数学を用いることで、理論的な整合性は取れたものになっている。

なお、生産や消費で測った経済規模の拡大よりも、福祉の充実に価値を見出すことを経済学では否定していない。福祉がいかに人間的に重要かを道徳的に説く方が、下手に経済規模の拡大に貢献すると言うよりも、より経済学と整合的だと思う。

ところで社会保障と言っても公的年金、生活保護や失業保険、医療保険と色々とあるわけで、経済への影響はそれぞれ変わってくる。世代重複モデルによる分析では、公的年金が最適な貯蓄水準を達成して経済を改善*1する一方で、DSGEモデルによる分析では生活保護や失業保険は労働供給量を減少させ、経済規模を縮小する*2と考えられている。

*1つまり、パレート改善する。

*2エントリーで紹介されていたスウェーデンの失業率は7.5%(2012年7月)と、日本の4.3%(2012年7月)よりも高い。

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