2012年9月10日月曜日

誰の賃金が下がったのか?または国際競争ガーの誤解 ─ 就業者数の増減も注意

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児玉・乾・権(2012)「サービス産業における賃金低下の要因 ~誰の賃金が下がったのか~」というディスカッション・ペーパーが上がっている。

この論文の分析を『世間で蔓延する「国際競争ガー」という誤解を見事に解消』と解釈する向きがある*1が、以下の脚注からは著者らは結論を保留しているように思える。

11ただし、今回の分析期間は、製造業の雇用者数が大きく減少した時期に重なるため、(観測されない)スキルの高い労働者が会社に残り、スキルの低い労働者が退出した結果、製造業の賃金が上がっているように見えている可能性は残っている。

労働投入量が下がれば、労働生産性が上がる。労働投入量が上がれば、労働生産性が下がる。資本や労働の限界生産性は低下していくからだ。

製造業は賃金が上がる一方で、就業者数が減っている。第二次産業の就業者数は1992年の2194万人がピークで、2010年は1550万人と3割近い減少だ。サービス業は賃金が下がる一方で、就労者数が右肩上がりに増えている(図録▽産業別就業者数の長期推移(サービス経済化))。

つまり、国際競争が賃金を下げる効果があったとしても、就業者数の減少がそれを相殺している可能性がある。また、サービス業は国際競争に関係が無いように思えるが、バラッサ=サミュエルソン効果で非貿易財の価格も影響を受ける事から、労働生産性は低下しうる。非貿易財を買う人が貧乏になれば、非貿易財を売る人も貧乏になるわけだ。

国際競争が影響したか否かは結論できない。国際競争ガーと言う議論が間違いかも保留と言う事になる。児玉氏、乾氏、権氏の研究の発展を待つことにしたい。

*1『2000 年代に急速に進展した日本経済の特に製造業におけるグローバル化が賃金下落の要因ではなく』と論文にあるので、そのように主張していると解釈してもおかしくはない。

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