2012年9月28日金曜日

所得税の最高税率を上げても、所得税収は増えない?

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小さな政府を語ろう」で、米国の連邦所得税の37%はトップ1%の高収入の人が払っているが、彼らの税率を上げても税収は増えないと主張している。

税金の大半を払っている人の税率を上げても、税収が増えないとは謎々のように感じるが、現在のグラフと、時系列のグラフを同時に見て混乱してしまったようだ。

ZeroHedgeがエントリーの元ネタで、そこには連邦税に関するTipsが幾つも書かれている。「小さな政府を語ろう」では、そこの三つのグラフを参照している。

1. 高額所得者が税収の大半を負担

一つ目は「所得トップ10%が連邦所得税の71%を払っている」と説明されているグラフで、"ZeroHedge"では既に累進性が高い事を指摘し、「小さな政府を語ろう」では「僕からしたら十分払っているのでは?と思ってしまう」と感想を述べている。ここは主観も入るところだが、基本的には問題ない。ただし、2009年のデータだ。

2. 高額所得者の税率を上げても、税収は増えない?

二つ目は「税率の引き上げは必ずしも所得税収増を導かない」と説明されているグラフで、"ZeroHedge"ではレーガノミクスでの所得減税が税収低下をもたらさなかったと説明し、「小さな政府を語ろう」では「トップクラスの税率の高さと税収は何の関係もない」と主張している。確かにレーガノミクスで、最高税率を44%減したのに税収が15%しか減っていないが、これは1980年代の所得分布が2009年ほど極端でないからだ。またインフレ気味で、名目値で税率が決まる所得税が実質増税になっていた事にも注意する必要がある。

3. 高額所得者の所得シェアは増加している

米国では所得格差は年々と拡大している。1979年と2007年を比較すると、上位1%層の実質所得は278%も増える一方で、下位20%は18%、中間層は40%しか増えていない(アメリカNOW)。ここを認識していないと、最高税率と連邦所得税収に関係が無いと思えるかも知れない。

レーガノミクスの最高税率軽減で、GDP比9.2%の所得税収が8%に減ったのは、2009年の高額所得者の所得シェアから見ると微々たるように思えるが、当時のトップ1%の所得シェアは今の半分程度だった(Saez(2010) FIGURE 2)。するとトップ1%の税率を50%から28%にしても、税収は12%程度しか下がらないわけで、GDP比9.2%から8%への下落は概ね一致する。

4. 100%-37%+37%×2=137%

そもそも時系列のグラフを見る必要も無く、所得トップ1%が税率35%で連邦所得税の37%を払っているのであれば、税率70%にすれば連邦所得税が37%弱増えるのは自明なように思える。もちろん、ストック・オプションなどでキャピタルゲイン課税にして節税を図る高額所得者が増えると思うが、"ZeroHedge"と「小さな政府を語ろう」では、そういう議論にはなっていない。

5. 政府税収と政府支出

三つ目は「連邦税収は歴史的に平均的なレベル」と説明されているグラフ。"ZeroHedge"も「小さな政府を語ろう」も特に説明をつけていないが、内訳で社会保険料が増えていたりするので、公共サービスの内容も変わっていることには注意したい。政府支出は増えているはずなのだが。

6. 増税と政府支出の拡大が経済に悪いとは言えない

「小さな政府を語ろう」の最後につけられた結論についていくつか。

金持ちは税金を払っていないは根拠がない。

新聞を読まないのかも知れないが、ウォーレン・バフェット氏が6300万ドルの所得で、連邦所得税690万ドルしか払っていない事が明らかになっている(WSJ)。問題になっているのは富裕層の税率もそうなのだが、キャピタルゲイン課税の部分も大きい。

金持ちはもっと税金を払うべきだ。そうすれば税収が増えるはずだという主張も根拠がないことは明白だ。

上述の通り高額所得者が多くの税金を払っているのだから、最高税率と連邦所得税収に関係があるのは明白に思える。もっとフォーマルに税率と税収の関係を分析した研究もあり*1、最高税率70%ぐらいまでは税収が増えると言われている。貧富の格差が拡大していること、階層が固定化しつつある事も忘れてはいけない。

ただ、嫉妬に狂って国全体をさらに貧しくし、自分達の首を絞めている。それだけのことだ。

「国全体をさらに貧しくし」の根拠は示されていないが、ノーベル賞経済学者のDiamondと著名経済学者のSaezは、高税率が経済成長を阻害するとは言えず、公共投資が不足している現在の米国では、むしろ成長を促す可能性があると主張している(WSJ)。

*1Diamond(1998)Saez(2001)を参照。

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