2012年9月10日月曜日

積立方式への移行よりは、マクロ経済スライドの改良を

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少し前の記事だが、学習院大学の鈴木亘氏がブログで「(6)積立方式(=確定拠出方式)はインフレに弱い」を根も葉もない全く間違った俗説と主張している(BLOGOS)。その理由はインフレ率と名目金利が強く相関するフィッシャー効果だそうだ。『年金の積立方式はインフレに弱いという「永田町・都市伝説」』では、時系列グラフを使って説明もしており説得力があるように思えるが、積立方式への移行の必要性まではつながらない。

1. やはり積立方式はインフレに弱い

ただし俗説と言い切るのは問題がある。1978年まではインフレ率の方が高かった。オイルショックや預金金利の自由化が1979年から段階的に進められている事もあるが、インフレ率が安定的に推移している時期しか参照されていない。また、金利とインフレ率のスプレッドは安定的ではない。また金利が自由化されているのに、金利とインフレ率が逆転する現象は国外では良くある。例えば2011年の米国の5年/10年国債の金利は、インフレ率を下回っていた。

2. 名目金利はインフレ予測と連動

名目金利がインフレ率を上回る理由として、鈴木亘氏はフィッシャー効果を参照しているが、鈴木氏も『正確には、長期金利が「期待インフレ率」に連動する現象』と言っているように、本当は予測インフレ率と連動する。つまり、事後的に名目金利がインフレ率を上回るとは限らない。市場予測の精度は高く無いため、名目金利とインフレ率のスプレッドが開いたり、逆転したりするわけだ。

3. 積立方式は経済成長にも弱い

積立方式は経済成長にも弱い。高度成長期(60年代)の定期預金はほぼ5%である一方で、名目経済成長率は16.6%になっている。確定拠出型年金だと、老後が一般的な生活レベルに届かない。金融自由化されていたら金利も上がったと思うかも知れないが、そうとも言えない。2001年から2011年までの韓国の一人あたり名目経済成長率は平均6.1%だが、預金金利(6ヶ月)は平均4.8%でしかない。

4. 今後の日本も賃金水準は上昇するかも知れない

今後の日本が急成長するようには思えないが、理論的にはリスクはある。つまり人口減少局面にあるので、資本が余ってくる。すると資本の限界生産物(=金利)は減少する一方で、労働の限界生産物(=賃金)は上昇していく。現役世代と引退世代の可処分所得のギャップが開くわけで、確定給付年金でロールズ的な社会的厚生が改善される可能性もあるわけだ。今の賦課方式が不公平だからと言って、今後のあらゆる状況で積立方式が公平になるわけでもない。

5. 積立方式で運用に失敗したらどうなるのか?

個人型/企業型確定拠出年金の401kプランは、運用に失敗したら老後生活が打撃を受ける弊害がある。AIJ問題で知られているように、公的年金でもリスク資産を持っていたら打撃を受けるわけで、運用失敗時の問題も考慮する必要がある。長期的な視点で見れば東証インデックスや不動産投信でも打撃を受けているわけだ。もちろん国債と言う安全資産もあるが、大口機関投資家が国債保有だけに走ると運用金利が低くなる。

6. 今さら積立方式に移行するの?

今後も低い出生率が維持されるのであれば意味があるが、団塊の世代が引退してしまったのでタイミングを逸した感がある。既に生産年齢人口の減少局面に入っているわけだし、手っ取り早く実現可能な方法が望ましい。積立方式への移行は大改造だ。

人口動態の変化で年金給付額を調整する機構が無いことが問題なので、そこだけ改善する方が良い。制度的に今まで何もやっていないわけでもなく、2005年にマクロ経済スライド*1が導入された。給付額を増やしても、給付額を削減しない欠点があるので、デフレ経済に対応して年金額の名目値を下げるようにすれば、「世代間のアンフェアな分配」の解消がある程度達成される。遡って適用すれば、今の年金世代にも人口減少の負担をシェアしてもらう事もできる。

7. 積立方式への移行よりは、マクロ経済スライドの改良を

積立方式への移行は無理がある。インフレ予測は正確ではないので、名目金利とインフレ率のスプレッドは不安定である事から、やはり積立方式はインフレに弱い。また経済成長などの実質賃金の上昇から、現役世代と引退世代の可処分所得の差が開く可能性がある。膨大な年金基金の運用には困難に伴う。そして、大きな制度改造になるので政治的な実現可能性が低い。マクロ経済スライドの制度変更で「世代間のアンフェアな分配」の解消が可能だから、実のところ必要性も高くない。

積立方式には政治的に給付額の調整を議論しなくて良い利点があるのだが、今から導入するのには大きな政治的な混乱を巻き起こしかねない。マクロ経済スライドの方はマイナス調整を可能にするだけで済むので、政治的にずっと現実的なはずだ。

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*1所得・賃金の伸び、労働人口の減少、平均余命の伸びから、年金給付額の増加を調整する方式。なお減少方向では調整されない為にデフレでは機能しない。また、名目成長に比例して、年金給付額が増大する。

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