2012年8月1日水曜日

稲作経済で考える、少子高齢化と世代間不公平の問題

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疑似科学ニュースさんから返信が来た。前のエントリーの説明に良く無かったので、逆に混乱を産んでしまったようだ。原材料や中間財が無数にあり、連鎖的にお金が流れていく事を考えると混乱するので、単純化して、高齢化が問題になっていて、世代間の不公平の是正が必要な理由や、なぜ貯蓄が低下すると考えられるかの説明を試みたい。

1. 稲作経済での政府債務を考える

社会全体で稲作を行っており、収穫量が一定の自給自足な経済を考えてみよう。個々が収穫量の一部を備蓄米とし、残りを消費する。各期の収穫量は、種籾の量に依存する。

現役世代の若者(第2世代)は、食べる分とは別に備蓄米を蓄えていく。一方で老人(第1世代)は、既にある備蓄米を消費して生活を行う。高齢化が進むと、社会全体の備蓄米の量が減っていく。なお、もし銀行があるとすると、老人から余剰米を集め、若者に貸し付ける機関と言う事になる。

代官が、若者から米券と引き換えに種籾にしなかった余剰米を集め、老人に社会保障(公的年金や医療費)として配り出したとしよう。老人は備蓄米の量が増えるので、消費を増やす。代官が信用されているので、若者は米券をとっておく。

ここで大量の米券が発行されて老人が死んだ後に、若者が米券を米にしようとしたとする。代官には引き換えに渡せる米が無い。すると米券が無価値だと一方的に宣言してデフォルトするか、年貢を徴収して米券と引き換える事になる。この中間だとインフレーションだ。

2. 人口に変化が無い場合は上手く行く

年貢を取ると批判されるので、代官としては年貢を取りたくないが、デフォルトも嫌な場合はどうすればいいか?

人口に変化が無いか、人口増加状態だと、さらに若者(第3世代)に米券を渡して余剰米を回収し、若者(第2世代)の米券を回収して余剰米を供給すればいい。

ただし、この方法では第2世代の人口が、第3世代の人口よりも少ない事が条件で、少子化が進むと使えない。

3. 日本が陥るかも知れない状況

老人(第1世代)の備蓄米は、死ぬまでに消費するので、無くなる。つまり、高齢者の資産は消えると考えられている。銀行があっても無くても、これは変わらない。

代官が出せる米券の量は、備蓄米の量に依存する。少子高齢化で備蓄米の量が減ったり、まかれる種籾の量が減れば米券の量を抑制する必要がある。

老人(第1世代)に公的年金を配れば配るほど、若者(第2世代)の負担が大きくなる。これが世代間不公平で、現在大きな問題になっている。

4. 日本が陥っている状況など

種籾をまかない。90年代からずっと企業投資は抑制されている*1。種籾あたりの収穫高は増えている*2のだが、不景気だと思われている。

大量に米券を持っている人々がいるはずなのだが、米にして消費しようとしない。米券を子どもに遺産として残してしまう勢いだ*3

食べるときの年貢を増やす事にした。これだと老人(第1世代)と若者(第2世代)が両方負担できる。収穫時の年貢だと、もう若者(第2世代)しか負担しないため。

5. まとめ

ストックなのかフローなのか曖昧な話にしてしまったが、米を財、収穫量を生産量、備蓄米を貯蓄、種籾を民間投資、代官を政府、米券を政府債務、年貢を税金、食べるときの年貢を消費税、収穫時の年貢を所得税と置き換えてもらうと、現在の状況に対応している。

厳密に議論すると備蓄米は腐らないのかとか、他に資本ストックは無いのかとかの問題があるが、日本政府が抱える問題はこれで大雑把に理解できると思う。そうは複雑な話では無いはずだ。

A. よりまともに考える為に

この辺りの議論を真面目に考えるには動学マクロ経済学を真面目に勉強する必要があると思う。「世代重複モデルで見る少子高齢化と利子率」や「現代マクロ経済学の基本モデルを知る」で簡単な紹介を試みたが、厳密にはテキストで勉強して頂きたい。

追記(2012/08/01 19:30):「追記2」を頂いたが、マクロの生産関数に関して一般的でない考えがあるので、指摘したい。

社会が生み出す価値(生産物)の量は生産人口に比例すると考えるか否かだと思うのだよね。

概ね、マクロ生産関数はAtF(資本, 労働)*4のような一次同次関数で捉えられていて、現在でも当てはまりは悪くない。RBCモデルなので当然だが、Hayashi and Prescott(2002)でもこのような関数を仮定している。

比例すると考えている典型が「デフレの正体」の著者だ。機械化されていない時代の農作物とかはそうかもしれないが、現代では成り立たないと思う。

デフレの決定要因は明確ではないが、ハロッド・ドーマーモデルはF(資本)と労働量に関係なく生産水準が定まるが、この場合の方が不安定になる事が知られている。

ジャガイモを無限に生産できるモデルでは、ジャガイモの購入費が増えていく。しかしその購入費はジャガイモ生産者の利益として、その社会で消費される。つまり循環している。

その経済は桃源郷になっている。古典的なケインズ・モデルY=c(Y-t)+I+Gでも、税金tと政府投資Gを引き上げただけ国民所得Yも増えていくが、これは需給ギャップが埋まらない事が前提になる。

追記(2012/08/01 22:30):「追記3」で『高齢者が増加していく限り、(高齢者向けの商品としての)ジャガイモの生産量も無限に増やせ・・・おかしい?』と聞かれたので、それは需給ギャップの存在に依存する事を指摘したい。

以下の示された状況設定を土台に説明してみる。

10万円の給料の若者が、1万円でジャガイモを購入し、残りの9万円を他の用途に使っていたとする。ある時ジャガイモを購入する量が3万円になったとする。ジャガイモ生産者は2万円の利益アップとなり、それを市場で使うから、まわりまわって若者の2万円分の給料アップとして返ってくるはず。

若者の労働時間が10時間/日で、時給1万円(高!)。そして1万円で50Kgのジャガイモを購入できるとする。ここで、ジャガイモを購入する量が1万円から3万円になり、他の財に変わらず9万円を費やす状態を考える。

1. 需給ギャップがあり、労働量を増やせる場合
労働時間が12時間/日になり、12万円分の所得になる。延びた労働時間はジャガイモ生産に費やしている事になるので、ジャガイモの生産量が3倍に増えており、50Kgで1万円の価格は変化しない。
2. 需給ギャップが無く、労働量を増やせ無い場合
時給が1万2000円になり、12万円分の所得になる。ただし労働時間は一定なので、ジャガイモ生産に費やす時間は2時間30分、それ以外の生産に費やす時間は7時間30分になる。ジャガイモ生産は2.5倍になるが、その他の生産量は約17%のダウンになる。ジャガイモとその他の財の価格は20%増加し、インフレーションになる。

(2)の需給ギャップがある場合でないと、ジャガイモ以外の消費が減る可能性がある。ここでジャガイモを高齢者専用の食材とすると、若者の消費財が減る。また、(1)と(2)の両方の場合で労働時間が増加しており、若者は何らかのコストを常に払う事が分かる。

なお、このケースでは、生産財はジャガイモ、投入財が労働時間だけで、中間財による「まわりまわって」を排除している。ただし中間財などがあるケースでも、突き詰めれば労働時間や原材料やエネルギーなどの有限資源が生産に必要になるため、永久循環するわけではない。

「高齢者は死ね」というエキセントリックな主張が許される前提なのだから、同レベルの主張が許されていいはず。

そういう乱暴な主張もあるものの、高齢者も働いてジャガイモを生産しろ(=年金給付年齢の引き上げ)、高齢者はジャガイモを少し我慢しろ(=社会保障の引き下げ)と言う主張が一般的であると思われる。

追記(2012/08/02 17:00):「追記4」に関して。実の親子間で不公平がありえないかと言うと、そうでも無い。

これは親と子の間に国が介在しているからで、年金システムがなかった頃のように子供が直接親の生活費を負担していれば、感じ方は違うはず。つまり不公平感というのは錯覚。

手取り60万円の子どもが2人いて、それぞれが20万円づつ仕送りしていたら、親子ともに40万円づつ使える。しかし手取り60万円の子どもが1人しかいなくて、親に40万円を仕送りしたら、子どもは20万円しか使えない。恐らく仕送りを減らして調整する事になる。

これが社会保障制度になると、自分の子どもの生活とは直結しないため、給付額の調整が難航する事になる。しかも確定給付なので、親が受け取る金額が決まっており、それにあわせて仕送り額が決定されるわけだ。

追記(2012/08/03 03:30):「追記5」で例え話が上手く伝わらなかったので、補足したい。

社会保障制度は一人っ子と2人兄弟の間の負担の不公平さを、是正しているということ。一人っ子を不利にさせないことで、少子化を後押ししているともいえる。

少子化しているのだから、全体として負担が増えていると言う意味で書いた。社会保障制度が兄弟の数が異なる人々の間の不公平を是正しているのは否定しないが、親世代が受け取る金額を調整しないと、子世代の負担が大きくなる。なお、社会保障費の給付水準の切り下げを求める人でも、制度そのものを否定する人は少数派だと思われる。

いまの若者が不利益を被るのはかなり先(若者が高齢者になった時)の話。

先送りにしていて良いのかと言う問題は残る。

いまだけ考えれば、むしろ景気対策になっているはず(赤字覚悟で金をばらまいているのだから)。

二つの点で問題がある。年金や介護も財政赤字で賄うと国民所得を向上させるが、年金や介護である必要が無い。生産年齢人口の減少は大きく、失業者がゼロになっても影響を相殺できない。1990年に5.1倍だった生産年齢人口/非生産年齢人口は、2012年は2.4、2025年は1.8、2050年は1.2になると予測されている。

*1明らかに消費に比べて民間投資の伸びが無い。

*21990年代は一人あたりGDP成長率もTFP成長率も低迷していたが、2001~2010年の一人あたりGDP成長率はEUや米国よりも良好である(The Economist)。

*3相続財産は毎年50兆円を超えていると思われ(宮本(2010) 図表1)、平成22年度年次経済財政報告の記述では「70歳以上では・・・消費性向は100%前後であり、貯蓄は取り崩していない」とある。

*4Atは技術。

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